研究領域 | ゆらぎの場としての水循環システムの動態的解明による水共生学の創生 |
研究課題/領域番号 |
22H05230
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小槻 峻司 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 教授 (90729229)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 水災害 / 災害伝承 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では長期変動する水災害リスクと社会の関係を解明を目指して地球圏の知見を人間圏に活用する研究を推進し「水共生学」の創出に貢献する。まず過去180年間の洪水・旱魃を対象とした日本の水災害リスク変動を推計しデータベース化する。更に水災害リスク変動が社会に与えた影響を吉野川・筑後川で地域研究し、時空間上の「疎」な災害伝承情報を数値計算による災害リスク変動から裏付け、地域社会の理解に発展させる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)過去180年間の洪水・旱魃を対象とした日本の水災害リスク変動を推計・情報創出し、災害伝承情報を数値計算で裏付け、(2)水災害リスク変動が社会に与えた影響を理解することである。2022年度は以下を推進した。 (a) 20世紀再解析(20CR)の検証: 20CRは50km解像度と粗い数値モデルの出力結果のため、降水量の強度、トレンドの2つの観点で精度調査を進めた。アメダスの3日積算雨量・トレンド解析調査を参照し、吉野川・九州北部において、ともに強雨増加傾向であることを確認した。降水量の強度では、吉野川付近において20年ごとの累積分布関数を作成し、1900年前後で分布が異なることを確認した。 (b) 地域研究: 吉野川流域において、降雨流出氾濫モデル (RRIモデル) による河川流量計算を開始し、まず過去期間におけるRRIモデル計算の妥当性評価を実施した。比較的大きい流域では、観測流量を再現可能である事を確認した。加えて、下流域の災害伝承である高地蔵についても、その分布データのデジタル化を進めた。 (c) 陸域水循環モデル長期計算の実行: 入力データ整備と数値モデルのプログラムコード更新を行い、20CRを用いて、180年間の陸域水循環モデル(SiBUC)計算を実行した。また、他の再解析データとの整合性確認を進めた。 (d) RRIモデル計算負荷軽減のため、深層学習を用いたエミュレータ開発を進めた。入力となる降水予測情報や、出力となる浸水深を事前にオートエンコーダで情報圧縮して重要な情報を抽出し、抽出した情報特徴量の間を全結合NNで学習することで効率的なエミュレータ開発をした。 (e) 現地調査: 2022年11月に武雄市巡検に参加した。六角川中流~下流域の視察を行うと共に、武雄鍋島家歴史資料「御日記草書」(武雄市歴史資料館所蔵)の資料整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
20CRの検証では、引き続き調査が必要なものの、20CRの降雨特性を把握することが出来た。また、陸域水循環モデルSiBUCのソースコード改良を進め、20CR期間の長期陸域水循環解析を進めた。この長期計算は、全球・日本域の水災害リスクの長期変動を領域に提供する重要な役割を持つ。1955年以降に得られる気象庁・再解析データなど、他の再解析データに基づく陸域水循環解析結果との整合性を確認した上で、判読性の高いデータに翻訳し、今後領域に提供を図っていく方針である。 地域研究では、吉野川・武雄の両地域での研究が着実に進行している。吉野川の研究については、吉野川流域を計算可能なRRIモデルを構築し、信頼性の高い降水量データで検証を終えており、今後この数値モデルを過去計算に適用することが可能である。また、吉野川流域で特徴的な高地蔵についても、その位置・建立時期に関する情報がデジタル化されており、今後災害と高地蔵の関係を調査していく方針である。降雨流出氾濫モデルのエミュレータ開発では、英語論文を発表するなど着実に成果を見せている (Momoi et al. 2023 AIES)。
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今後の研究の推進方策 |
今度の方策は以下を推進する。 (1) 20世紀再解析(20CR)の検証: より多くの観測を同化して信頼性の高い情報である気象庁の再解析データなどを利用し、20CR自身の気象強制力の精度を検証していくと共に、気象強制力を用いた陸域水循環解析の結果についても、同様のトレンドが得られているか、などの検証を進めていく。また2022年度の解析で、20CR解析は水災害トレンドの抽出が可能である一方で、粗いモデル格子に起因して降雨強度は弱くなる傾向が示された。この点については、日本域における観測降水量に基づく1km解像度・降水再解析データなど、別の降水量データを利用した洪水氾濫計算の準備にも着手する。 (2) 水災害リスクデータの創出: 陸域水循環モデル長期計算結果と他の再解析データとの比較検証を進める。モデルの計算結果を災害の100年確率規模などの「洪水・渇水災害リスク指数」といった形に翻訳し、領域への情報提供を目指す。 (3) 地域研究: 吉野川流域、九州北部(武雄付近)を対象に、陸域水循環モデルや降雨流出氾濫モデルを用いた長期計算を実施、その結果を高地蔵や神社奉納物などと比較検討することで、災害激甚性と災害伝承の関係を調査していく。
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