研究領域 | 神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム |
研究課題/領域番号 |
22H05485
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
殿城 亜矢子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (90645425)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
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キーワード | 記憶 / 学習 / 老化 / 神経ペプチド / ショウジョウバエ / Dh31 |
研究開始時の研究の概要 |
学習・記憶能は、加齢に伴い低下する。その原因として、神経ペプチドが加齢に伴い変化し、記憶低下の原因となることが示唆されている。しかし、記憶形成に関与する神経ペプチドが記憶能を支える神経回路にどの様に組み込まれているか、また神経ペプチドと加齢性記憶障害との関与については不明な点が多い。本研究はショウジョウバエの嗅覚記憶系を用いて、行動遺伝学や生体カルシウムイメージング手法、単一細胞群トランスクリプトーム解析を組み合わせることで、神経ペプチドが学習・記憶機能を制御する神経基盤・分子機構を明らかにする。さらに、神経ペプチドの加齢性変化が記憶に与える影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
動物は、危険な状況を学習・記憶し、生き抜く能力をもつ。この様な動物の適応行動に必要な学習・記憶能は、加齢に伴い低下する。その原因として、神経ペプチドが加齢に伴い変化し、記憶低下の原因となることが示唆されている。しかし、記憶形成に関与する神経ペプチドが学習・記憶能を支える神経回路にどの様に組み込まれているか、また神経ペプチドと加齢性記憶障害との関与については不明な点が多い。本研究は学習・記憶能を支える適応回路が明らかとなっているショウジョウバエの嗅覚記憶系を用いて、行動遺伝学や生体カルシウムイメージング手法、単一細胞群トランスクリプトーム解析を組み合わせることで、神経ペプチドが学習・記憶機能を制御する神経基盤・分子機構を明らかにする。さらに、神経ペプチドの加齢性変化が記憶に与える影響を明らかにすることで、加齢性記憶障害の新たな機構の解明を目指す。 これまでに体系的スクリーニングにより記憶に関与することが示唆された二種類の神経ペプチドについて解析を進めてきた。中枢複合体の背側および腹側扇状体(dFBおよびvFB)ニューロン、および脳内の腹側時計ニューロン(LNvs)におけるDH31の発現が睡眠調節に関与していることを明らかにしたdFBニューロンで膜結合型DH31を発現させると、Dh31変異体の睡眠障害が回復したことから、dFB、vFB、LNvsからのDH31がdFBのDH31受容体に作用して、一部自己調節フィードバックループで睡眠調節を行っていると考えられる。一方で、オクトパミン作動性ニューロンにおけるDH31の発現が記憶形成に関与していること、つまりDH31が異なる神経を介して記憶形成と睡眠を制御していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ショウジョウバエの嗅覚記憶系を用いて、行動遺伝学により神経ペプチドが学習・記憶機能を制御する神経基盤・分子機構を明らかにしてきた。令和4年度はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)のハエホモログである神経ペプチド利尿ホルモン31(Dh31)が記憶の獲得と睡眠を正に制御していることを明らかにした。さらに、その神経回路として中枢複合体の背側および腹側扇状体(dFBおよびvFB)ニューロン、および脳内の腹側時計ニューロン(LNvs)におけるDH31の発現が睡眠調節に関与していること、オクトパミン作動性ニューロンにおけるDH31の発現が記憶形成に関与していることが明らかになった。概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は下記の研究計画を推進する。 研究計画2:神経ペプチドが記憶を制御する分子機構の解明:計画2-1)神経ペプチド発現神経細胞や記憶神経回路を担う神経細胞群の遺伝子プロファイリング解析:神経ペプチド発現神経細胞あるいは記憶神経回路を担う神経細胞群を解離・単離し、RNA抽出した後、RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析を行う。着目する神経ペプチド発現神経細胞で神経伝達物質など記憶に関与する遺伝子群の発現レベルを検討する。また、(A)若齢個体、老齢個体との比較、(B)神経ペプチド変異体との比較を行うことで、神経ペプチド発現神経細胞における遺伝子プロファイリングを解明する。 計画2-2)神経ペプチド発現神経細胞で記憶に関与する遺伝子群の同定:計画2-1で得られた結果をもとに、神経伝達物質など記憶に関与する候補遺伝子群の発現を神経ペプチド発現神経細胞でノックダウンもしくは過剰発現させた個体の記憶を測定し、神経ペプチドと協調して記憶に関与する遺伝子群を同定する。 研究計画3.神経ペプチドの加齢性変化と記憶低下の関与:神経ペプチド発現神経細胞やペプチド受容体発現細胞の数や形態の加齢性変化を解析する。さらに、神経ペプチド発現細胞の加齢による機能変化について明らかにするために、ペプチド発現神経細胞の人工的な操作により神経ペプチド受容体発現細胞が興奮あるいは抑制的に機能するかについてカルシウムイメージングにより検討する。さらに、加齢による神経ペプチドの変化が加齢性記憶障害の原因となる可能性を探る。神経ペプチド発現神経細胞の活性を遮断あるいは亢進させた老齢個体を作製し、老齢個体における記憶が回復するかを検討する。
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