研究領域 | デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学 |
研究課題/領域番号 |
22H05726
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中山 恵介 神戸大学, 工学研究科, 教授 (60271649)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
2023年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2022年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
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キーワード | ブルーカーボン / 成層 / 淡水湖沼 / SAV / hydrodynamic / 淡水カーボン / 水草 / 炭素フラックス / 水中カメラ / 淡水ブルーカーボン / 陸水 |
研究開始時の研究の概要 |
カーボンオフセットやカーボンニュートラルの推進を目指し,沿岸域における「ブルーカーボン研究」が世界的に成されている.一方,世界の沿岸域に対して約2倍以上の面積を有する湖沼においては,これまで陸水は炭素の放出源と考えられていた中,最新の研究により,大量の炭素が吸収されていることが明らかにされつつある.湖内全域における炭素吸収ポテンシャルを正確に見積もるためには,水生生物や植物の空間スケールを考慮しつつ,正味でどの程度炭素が吸収されているかを明らかにしなくてはならない.そこで本研究では,主要な炭素の吸収源である水草や藻類が,どの程度炭素を吸収しているかを定量定期に解明することを目的とする.
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研究実績の概要 |
カーボンオフセットやカーボンニュートラルの推進を目指し,沿岸域における「ブルーカーボン研究」が世界的に成されている.一方,世界の沿岸域に対して約2倍以上の面積を有する湖沼においては,これまで陸水は炭素の放出源と考えられていた中,最新の研究により,大量の炭素が吸収されていることが明らかにされつつある.湖内全域における炭素吸収ポテンシャルを正確に見積もるためには,水生生物や植物の空間スケールを考慮しつつ,正味でどの程度炭素が吸収されているかを明らかにしなくてはならない.そこで本研究では,これまで対象としてこなかった亜寒帯の湖沼であり,主要な炭素の吸収源である水草が多く存在する阿寒湖を対象とし,正味の炭素収支にとって重要な①呼吸・光合成による炭素放出・吸収量,②底質からの炭素の溶出量,および③風波や吹送流による水草や藻類の打ち上げによる系外への炭素の除去量を定量的に解明する.潜水調査による水草調査,水中カメラによる打ち上げ量推定,現地観測による水草による炭素吸収量調査を行い,湖内における炭素の複雑な生物化学的変化,および輸送機構を再現出来るモデルを構築し,計測結果を用いてその検証を行う. 阿寒湖の解氷から結氷直前までの期間を対象とすべきであるが,採択が7月からということもあり,計測器の購入手続き等の影響で9月からの観測となった.計測には,タイムラプスカメラ,および水中カメラを利用し,広域~詳細な分布および打ち上げ量に関する計測,および現地における水中CO2分圧・水質計測を行う.水草を利用した室内実験を行うことで,呼吸及び光合成による炭素の放出・吸収量を評価できるモデル式を提案する.阿寒湖の他,比較対象としてオーストラリアのLake Mongerおよび神戸市の烏原貯水池における解析結果も利用し,多様な湖沼の炭素の吸収・放出機構を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
阿寒湖における炭素分布および二酸化炭素の吸収量を解析するため,湖内における縦横断の3次元的な水中二酸化炭素分圧の計測,および採水による溶存無機炭素および全アルカリの計測を試みた.水草帯,水草帯の沖,アマモ群落,そして何も存在しない地点の合計4地点である.採択後,すぐに計画に取り掛かったが,7月からの研究開始であったため計測器の調達の問題などにより9月の観測となった.そのため,既に水草であるマツモが減少し始めていた時期と重なり,水草の存在による水中二酸化炭素分圧の特徴的な値(急激な減少など)を計測することができなかった.今年度は4月から準備にとりかかることができるため,5月の解氷直後に阿寒湖にて水中二酸化炭素分圧計や水温チェーンの設置を行う予定である.一方で,同様に時期が遅れての水中カメラ計測となったため,水草の打ち上げなどの特徴的な現象をとらえることはできなかった.水中カメラや水温チェーンと共に設置した風向風速計は順調に計測できており,次年度はリアルタイムでの計測が可能なものへとグレードアップを行う予定である. 水草と藻類の呼吸と光合成による炭素吸収・放出推定式を作成するため,屋外における呼吸及び光合成による炭素の放出・吸収実験を行い,水温および光量子密度を利用した炭素の時間変化式を提案するという点については,水草の代表であるササバモを利用した屋外実験を実施し,沿岸域のアマモに比して,単位面積あたりの吸収速度が小さいことがわかった.アマモは単位面積あたりの乾燥重量がササバモに比して大きいことが要因であると考えられる.また,群落として存在する水草が,どの程度,二酸化炭素を吸収しているかを検討するために,室内実験および3次元数値計算を実施した.その際,屋外実験で得られたDIC方程式を利用し,水草の面積やたわみが大気からの二酸化炭素の吸収量に重要な影響を与えていることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,阿寒湖が解氷する5月中旬において,水温チェーン,風向風速計,そして水中二酸化炭素分圧計の設置を行う.連続計測は,結氷し始める12月より少し前の11月まで継続する.水温の鉛直分布と水中二酸化炭素分圧の5分から10分間隔での高解像度な計測を実施することにより,水草帯においてこれまでに計測されたことのない,詳細な流動場および生物活性に関する情報を得ることが可能となる.また,設置時には多項目水質計を利用した多点における溶存酸素を含む現地観測を実施する.阿寒湖における正味の炭素吸収量と,烏原貯水池やLake Mongerにおける既存の観測データ(申請者らによって過去に計測された結果および他の研究費により計測されたデータ)と比較し,寒冷地において何が主要因でどのような特徴を有するかを検討する. また,打ち上げがどのような状態で発生しているかを計測するために,水中カメラによる水草および藻類の水中内での動態解析を行うと共に,湖上にもタイムラプスカメラを設置して打ち上げの様子を計測し,水中カメラの画像と同期解析を行うことで水中から湖岸へと打ち上げられる水草の輸送量に関する解析を実施する.既に昨年度実施したため,必須ではないが,可能であれば信頼性の向上のため,屋外における呼吸及び光合成による炭素の放出・吸収実験を行い,水温および光量子密度を利用したDIC方程式の高精度化を目指す.そして,阿寒湖の他,多様な淡水湖沼において実施する現地観測,および水草を用いた屋外実験の結果を利用し,3次元数値計算モデルへの水草要素の組み込み,および再現性の検証を行う.そして,数値計算結果から平面内における現象を積分し,3次元的な現象を鉛直1次元モデルへと集約する.鉛直1次元モデルでは高速な再現計算が可能であることを利用することで,二酸化炭素の調整機能を長期間に渡って将来予測することが可能となる.
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