研究概要 |
細胞伸長は植物の形態形成の基本過程である。この過程は、細胞壁の「ゆるみ」と「硬化」の二つの過程のバランスを介して制御されていることは古くより知られる。しかし,その分子過程やその制御機構は未だ特定されていない。本研究の目的は,特に細胞壁のゆるみに焦点をあて,その機構に関わる多糖と酵素を同定し,被子植物における細胞壁のリモデリングシステムを解明することである。 一般に,細胞壁のゆるみを惹起し,その状態を維持し,最後に硬化を引き起こす過程で必須の分子の候補としてこれまで,エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)が有力候補として考えられてきた。XTHは細胞壁中の架橋分子であるキシログルカン(XG)を基質とする酵素であり,イネやシロイヌナズナなどの被子植物だけでなく、ヒメツリガネゴケなどのコケ植物を含めた陸上植物でXTHは30前後のメンバーからなるファミリーを形成し、発現特異性や酵素機能などの多様性をもちながらメンバーが役割分担を担うことから、細胞壁中のキシログルカン/XTHによるリモデリング系の作動体としての役割を分担しているという仮説が提唱されていた。しかしながら,真正双子葉類以外の被子植物では,細胞壁中の生理機能をもったキシログルカンの存在そのものが疑問視されていたため,イネにおける上記のキシログルカン/XTHのモデリング系は疑問視されてきた。本研究ではその点を解明するために,まず,イネのキシログルカンを再検討し,イネにも,特定の組織には真正双子葉植物と同様にキシログルカンが存在することを実証した。ついで,イネのXTHはイネ細胞壁中のキシログルカンを基質として,成長制御に密接に関与することも明らかにした。これらの成果により被子植物においてはXG/XTHによるリモデリング系が細胞壁のゆるみの制御にかかわることが明らかとなった。
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