研究概要 |
植物のからだ作りにおいて,表皮細胞分化は不可欠である。シロイヌナズナでは,地上部表皮の幹細胞,すなわち茎頂L1層に特異的な遺伝子発現に転写因子PDF2,ATML1が関わり,これらが表皮細胞分化において中心的なはたらきを担う。PDF2,ATML1は,標的遺伝子の調節領域にあるL1ボックス配列に結合して,その発現を正に制御しているが,自身の調節領域にもL1ボックスが存在することから,正の自己制御が予想される。本研究では,胚発生過程において,PDF2,ATML1遺伝子の発現がどのようにL1層に限定されて自己制御が確立するか,その分子基盤を明らかにすることを目標とした。 PDF2が胚のL1層より内側の細胞では他の因子と相互作用して機能できなくなる可能性を考えて,PDF2と相互作用する因子を酵母2ハイブリッド法により探索した結果,RNA結合タンパクとE3ユビキチンリガーゼが2種類ずつ,BAHタンパク,機能不明タンパクが得られた。これらは,同じHD-ZIP IVファミリーに属するHDG2とも相互作用する一方,HD-ZIP IIIファミリーのCNAとは相互作用が認められなかった。PDF2タンパクのどの領域と相互作用するか調べた結果,START領域のC末端側からSAD領域にかけて結合部位があると予想された。 一方,表皮が欠損するpdf2-1 atml1-1二重変異株を用いたマイクmアレイの結果に基づき,転写因子に絞って遺伝子発現解析を行い,表皮に特異的に発現する転写因子として,Znフィンガーを持つタンパク質を新たに見出した。プロモーター=GUS遺伝子の発現から表皮に特異的な発現が確認され,この遺伝子をPDF3と名付けた。さらに,PDF3と非常に相同性の高い遺伝子PDF31と二重欠損変異を作出した結果,胚致死になった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的であるPDF2,ATML1の発現の開始とL1層への限定の分子機構は未だ明らかでない。PDF2プロモーターに結合する因子は,転写因子ライブラリーを用いたY1H実験により探索を続ける。また,ZIP IVファミリーの遺伝子間のヒエラルキーを明らかにするとともに,Y2H法で単離した相互作用タンパク質の解析(BiFCを用いた植物細胞での相互作用や遺伝子欠損変異株の解析)をすすめる。新たに見つけた転写因子PDF3,PDF3Lについても,機能解析に迫る。
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