研究概要 |
核小体はタンパク質合成を担うリボソーム構築に関わる細胞小器官として古くからよく知られているが,近年それ以外の機能も示唆されておりその構造に含まれる成分・役割については不明な点が多い。我々は,哺乳類において初期胚発生進行に卵母細胞核小体が必須であることを報告した。しかし,この核小体構造を構成している成分は明らかではない。本研究ではマウス卵母細胞核小体のタンパク質成分の同定・機能解析を目的として以下の実験を行った。 (1)Yeast Two-Hybrid法で卵母細胞核小体に局在するヌクレオプラスミン2(Npm2)と相互作用するタンパク質を同定。 (2)顕微操作によって大量に単離した卵母細胞核小体を高感度質量分析で解析し構成タンパク質を同定。 (1),(2)の実験から卵母細胞核小体に局在するタンパク質を同定できた。驚くべきことに同定されたタンパク質はユビキチン化,SUMO化に関わる酵素やヒストンシャペロンといったものがほとんどでリボソーム構築と関連性がなかった。さらに,同定されてきたタンパク質でありヒストンシャペロンとして知られるNpm2の機能解析を行った。核小体除去卵と同様に,Npm2欠損受精卵の前核には核小体が形成されず初期胚発生進行に異常が認められる。そこでNpm2欠損マウスの受精卵の動態を詳細に調べると,受精後雌雄両前核でヘテロクロマチンの高次構造に異常がみられ,第一分割時に染色体分離の異常が見られる。核小体除去卵でも同様の異常が見られることから,核小体構造が存在しないことにより受精後のクロマチン構築と染色体分離に異常が起こることが示唆された。また核小体除去卵に高濃度のNpm2タンパク質を発現させ受精させると受精卵の前核に核小体が形成され初期胚発生も正常に進行する。つまり,卵母細胞核小体の主なタンパク質成分はNpm2であり受精後のクロマチン構築に関わっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類卵母細胞は材料を大量に確保することが難しいため卵母細胞核小体のタンパク質成分を同定することは困難であると実験開始当時は思っていた。しかし,Yeast Two-Hybrid法や高感度質量分析によりタンパク質成分を同定できたことは評価に値すると思う。また,卵母細胞核小体の主な構成成分がNpm2であることを発見しNpm2が受精後のクロマチン構築に必須であることも明らかにした。哺乳類卵母細胞の受精後のクロマチン構築機構は未だ不明な点が多い中クロマチンと核小体との関連性が明らかにできた。今後は,受精後のクロマチン構築におけるNpm2の詳細な機能解析を哺乳類卵母細胞でも容易に大量に材料を確保できる系を立ち上げつつ行っていきたい。
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