本研究が目的とするのは、強力なレーザー光によってよって引き起こされる量子多体系の非平衡相転移について理論的に調べることにある。この目的を達成するために手法の開発と新現象の提案を平行して行った。平成24年度は、相関電子系における反転分布現象の研究を発展させた。反転分布では電子分布が高エネルギー側に偏り(負の温度状態)、これが実現すると、元々斥力である電子間相互作用が実効的に引力になる、という著しい効果を2011年に理論的に提案をしていた。この状況下では、s波超伝導といった、本来は引力系でしか実現しないような量子相が斥力相互作用する電子系で実現し得る。さらに、(非対称)パルス・レーザーでも反転分布が実現されることを見出した。これは、連続レーザーでは試料が破壊される可能性があるためと、現在の実験技術では強電場はパルス的にしか生成できないことを踏まえたものである。 本年度は以上とは全く異なる展開として、光誘起相転移が、従来は殆ど電子系に対して研究されてきたのに対し、非平衡量子スピン系を新たに攻略した。スピン系では、電子遷移を利用した光誘起現象は知られていたが、直接スピンをレーザー光照射によってコヒーレントに制御する方法については未開拓であった。そこで、円偏光レーザーを量子スピン系に照射すると、その磁場成分(回転磁場)がxy面内のときに、z方向に磁化が誘起される、という新しい現象を見出した。数値計算 (iTEBD法)は、このHaldane系のトポロジカル状態が、光誘起磁化状態に量子相転移することを示す。磁化誘起の機構は、多体Floquet法を量子スピン系に初めて適用することにより、基底状態と磁化状態のFloquet準位がレーザー照射によって共鳴するためであることが分かった。これは、量子スピン系に新たな非平衡物理の可能性を拓くと期待される。必要なレーザーはTHz領域と見積もられる。
|