研究実績の概要 |
紫外線や等に生じる活性酸素種は、DNA、蛋白質、脂肪等との反応性が高く生体に対して毒性を有するが、一方で生体は積極的に活性酸素種を作りだしシグナル分子として利用している。本研究は、活性酸素種の生体の恒常性維持を担う概日リズム制御におけるシグナル分子としての機能に注目し解析を行った。 概日リズムは光等の外界からの刺激を利用して多様な生理機能の周期を外環境の日周期に適応させ維持する。この機構の異常は発癌やメタボリック症候群等の現代病を含む多くの病態に関与する。多くの生物において、概日リズムは一連の時計蛋白質より構成される分子時により制御される。特に、脊椎動物の分子時計はCLOCK, BMAL1, CRY, PERの4種類の時計蛋白質により構成される約24時間の周期性を有するフィードバックループである。分子時計は、代謝や細胞周期等の制御を担う多様な遺伝子の発現を調節し、その標的遺伝子の発現に日周性を与える。現在までに分子時計の周期性の維持や外環境への同調の分子機構については解明されていない点が多く存在する。 本研究は、培養細胞を用いた生化学的解析から(1)活性酸素種が分子時計制御のシグナル分子として機能すること、(2)酸化ストレスに応答するMKK7-JNKシグナル経路が分子時計構成因子の機能制御をすることを見出した。哺乳動物において、脳の視交叉上核に存在する分子時計(中枢時計)が行動周期といった個体レベルの概日リズム制御の中核である。本研究は、(3)中枢時計のMKK7-JNKシグナル経路を機能阻害するために神経細胞特異的Mkk7-KOマウスを作出し、このKOマウスが恒暗条件下において行動リズムの周期性の顕著な低下を呈することを見出した。以上の知見は、「活性酸素シグナルがMKK7-JNKシグナル経路を介して分子時計の制御を担う」ことを示唆している。
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