研究実績の概要 |
1.恐怖表情は回避性を高め,反応抑制を導く(Hare et al., 2005)。本研究は脅威表情が行動制御に及ぼす影響について,行動,脳機能,5-HTT遺伝子多型機能の観点から総合的に検討した。その結果,①怒り表情は接近と回避の両者いずれかの行動を導くこと ②出力される行動の個人差は BIS/BAS,セロトニン・トランスポーター遺伝子の機能的差異において予測される ③こうした個人特性を調整する中枢神経系基盤としての前頭前野腹外側部の関与が示された。
2.魅力的な異性顔が他の報酬同様に認知課題の成績を向上させるかを検討すること,および報酬の持続的効果について,行動指標とDLPFC活動を指標として検討した。行動指標の結果から,ワーキングメモリー課題の報酬として魅力的な異性の顔を用いたとき,一次報酬や金銭報酬を用いたときと同様に課題の正答数,反応時間がともに向上することが明らかとなった。また行動指標と生理指標の結果から,報酬によりDLPFC活性は低減すること,課題成績はDLPFCが低活性状態である方が高いこと,そして報酬による活性低減は一定時間持続することが示された。
3.2.の研究内容を発展させ,COMT遺伝子多型に注目し,魅力的な顔認知に伴う認知制御へのLPFC活性について検討した。実験では、COMT遺伝子多型を機能高群(Val/Val型)と低群(Met型:Val/Met型,Met/Met型)に,実行機能に関わる作業記憶課題の成績に応じて魅力顔が提示される条件としない条件との間で,課題成績および課題中のLPFC活動を比較した。実験の結果,5-HT機能高群でのみ報酬条件で成績向上が確認され,他方,両群において課題成績とLPFCとの間に関連は見られなかったことから,5-HT機能調節は報酬による実行機能向上メカニズムに関与するが,LPFC活動の調節は伴わないことが示唆された。
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