研究領域 | 生涯学の創出-超高齢社会における発達・加齢観の刷新 |
研究課題/領域番号 |
23H03881
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (60827137)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 生活史 / 高齢 / 長寿 / 霊長類 / 発達 / チンパンジー / ニホンザル / 閉経 / 祖母仮説 / 社会性 / 山岳研究 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、チンパンジーの高齢個体が担う社会的役割を雌雄ごとに明らかにすることを目的とし、①高齢メスが娘の子育てを支援するか、②高齢オスが自身の子や孫に対して選択的に狩猟した肉の分配などを行うか、を行動学的に検証する。さらに、高齢個体が包括適応度の上昇に寄与するかを55年分の人口動態データを用いて検証する。本研究は、従来の野生動物研究で論じられてきた「衰退していく存在」としてではなく、「社会と関わり、社会を支える存在」としてのチンパンジー高齢個体の生き様を初めて浮き彫りにしようとするものである。
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研究実績の概要 |
高齢期の非ヒト霊長類に関する研究の多くは、「成長から衰退へ」という従来の発達観で議論されてきた。例えば、高齢個体は社会的紐帯が希薄になるという指摘や、加齢による身体的「衰え」を示す観察報告は多くある。これらは「老い」の特徴を非ヒト霊長類で示すうえで非常に重要である。一方、野生チンパンジーの発達を間近で見てきた私は、「チンパンジーの発達過程を、他個体との相互行為によって多様な変容を繰り返すプロセスとして捉え直すべき」と考えてきた。本研究を通して、非ヒト霊長類の新しい「生涯学」を提示し、ヒトを含む動物の高齢個体の生き様を改めて捉え直す契機としたい。本年度は約1か月間、タンザニア連合共和国のマハレ山塊国立公園でフィールドワークを行い、野生チンパンジーの行動観察を行った。高齢個体と他個体との関わりに関する情報を蓄積することができた。また、生活史を種間比較する際の課題を論考としてまとめた。特に、行動観察に基づく比較は塩基配列のような物質的基盤を持たないゆえの困難さが生じることを論じた。さらに、生涯学領域会議に参加し、ポスター発表等を通じて生涯学に携わる研究者たちと研究交流を行った。社会学者・脳科学者・心理学者・人類学者といった幅広い専門分野の研究者たちと交流の機会を得た。また、信州大学とタンザニアのダルエスサラーム大学と間で「事前同意(PIC: Prior Informed Consent)」および「相互に合意した条件(MAT: Mutually Agreed Terms)」の締結を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1992年の生物多様性条約の採択以降、遺伝資源の利用から生ずる利益を資源提供国にも還元しようとする機運が高まっており、世界各国において「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な利益配分(ABS: Access and Benefit-Sharing)」に関する法整備が進んでいる。現在、チンパンジーの父子判定のためのDNA解析を目的として、タンザニア研究研究機関および現地大学の関係者と生物多様性条約やABSに関する議論を深め、私が所属する信州大学とタンザニアのダルエスサラーム大学と間で「事前同意(PIC: Prior Informed Consent)」および「相互に合意した条件(MAT: Mutually Agreed Terms)」の締結を準備中である。その準備が当初の予定よりもやや遅れており、DNA解析の結果がまだ出せていない。 一方、現地での行動観察は問題なく継続しており、高齢個体と他個体とのやり取りに関する情報を蓄積できている。
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今後の研究の推進方策 |
私が調査対象とするタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジー集団は、半世紀を超える長期調査により、50歳を超えて生存・繁殖する野生チンパンジーの存在が明らかになっている。本研究では、チンパンジー高齢個体が担う社会的役割を明らかにするために、①高齢メスが娘の子育てを支援するか、②高齢オスが血縁個体に選択的に支援するか、を行動学的に検証する。さらに、近年調査を始めた上高地および地獄谷のニホンザル集団においても、高齢個体特有の行動が観察されたことから、ニホンザル高齢個体の生き様も解き明かしたいと考えている。
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