研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
23H03956
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
五月女 光 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (60758697)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 励起子 / 有機EL / 太陽電池 / 時間分解分光 / 超解像イメージング / 励起子拡散 / 発光材料 / 超高速イメージング / 動的エキシトン / 時間分解顕微分光 |
研究開始時の研究の概要 |
太陽電池や発光材料などの光電変換材料では、光照射により生成したエキシトンが材料中を伝播することで光電機能が発現する。とくに、有機薄膜太陽電池では、生成した励起子が、ドナー・アクセプター界面まで拡散し電荷分離が起こるため、微小な不均一環境における励起子の拡散過程が高い光電変換効率の鍵となる。しかし、既存の時間分解分光法では、こうした不均一性を可視化する空間分解能が欠落しており、バルク系で空間平均化された拡散評価にとどまっている。本研究では、時間分解分光に超解像技術を付与した超高速イメージング法を用いて、光電変換材料に内在する不均一環境下での動的エキシトンの拡散過程を解析することをめざす。
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研究実績の概要 |
2023年度は、光電変換材料中の励起子や電荷キャリアの時間的・空間的拡散を可視化できる時間分解イメージング装置を新規に開発し、動的エキシトン領域における共同研究として熱活性化遅延蛍光材料中の励起子拡散の解析に取り組んだ。時間分解イメージング法は、時間分解分光に超解像イメージング技術を統合した手法であり、試料薄膜内の励起子の分布を顕微鏡像として捉えることで、その拡散係数や拡散長を実空間で定量することが可能となる。この手法では、高NAの対物レンズを用い励起光パルスを、回折限界で決まる試料内の微小領域に照射し、励起子分布を形成する。その後、励起子拡散に伴いその空間的な分布幅が増大する様子を発光像として検出する。この際、時間相関単一光子計数法による時間分解測定を行い、最終的に励起子分布を試料内の位置と時間の関数として取得できる。構築した装置の性能評価のために、励起子拡散挙動が既知のペロブスカイト結晶を標準試料として測定を行い、既報と同程度の拡散係数が得られることを確認した。次に、この新規技術を用いて、領域内共同研究として進めている熱活性化遅延蛍光(TADF)材料中の励起子拡散の解析に応用した。青色発光を示すTADF分子であるMA-TAを対象として、結晶中の拡散係数と拡散長を定量することに成功した。特筆すべきは、光照射により生成したS1励起子がT1励起子に変換される時間スケールで、拡散係数が低下する点である。これは、項間交差に伴いエネルギー移動の様式がフェルスター機構からデクスター機構に切り替わる様子を捉えたものと考えられ、本手法によりスピン多重度に依存した励起子拡散ダイナミクスを峻別できることを示唆している。さらに、同一の結晶であっても結晶内の位置に依存して拡散係数が大きく異なることも確認され、当初の狙い通り、系に内在する空間不均一性を分解して、励起子拡散能を評価することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、当初の目標であった時間分解イメージング装置の新規構築、および熱活性化遅延蛍光(TADF)材料などの光電変換材料中の励起子拡散の評価を達成することができたため、本研究は概ね順調に進展していると考えている。装置開発については、年度始めの段階で必要な光学部品をとり揃えることができ、またとくに目立った技術的問題も発生せず、着手してから停滞することなく、ハード・ソフトともに2ヶ月程度で実用に足るレベルになった。これにより、早い時期から、具体的な試料系の測定に取り掛かることができた。また、発光性の一重項励起子の拡散を評価する実験であれば、1回の測定時間は2分程度であり、様々な試料系の探索に使用可能な分光イメージング手法であるといえる。分光手法の汎用性という意味では、通常の過渡吸収分光や時間分解発光分光に匹敵するレベルと思われる。また、励起光源としては、波長固定のピコ秒パルスレーザーだけでなく、Yb:KGW再生増幅器の出力やそれにより発生させたフェムト秒白色光も利用できるように整備し、試料系に合わせた励起条件を検討することができる。一方、具体的な試料として取り組んでいるTADF材料においても、本手法を用いることで、試料形態(結晶、アモルファス)や、試料中の空間不均一性、スピン多重度に依存した励起子拡散挙動を見出している。こうした情報は、従来の蛍光消光や過渡分光における励起光強度依存性による拡散係数の測定では取得が難しく、本学術変革領域の動的エキシトンの精密解析につながるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料中の励起子拡散の解析を継続するとともに、時試料系のターゲットを広げ、動的エキシトン領域の広範な試料系に応用して、試料の空間不均一性やスピン多重度が励起子拡散に与える影響を精査する。具体的には、領域内の共同研究として、三重項-三重項消滅を利用したアップコンバージョン(TTA-UC)材料における励起子拡散の計測に取り組む。非フラーレンアクセプターとルブレンからなる2層膜を対象として、近赤外光照射による一重項励起子の生成とそれに続く電荷分離、再結合、三重項励起子の生成・拡散を実空間で計測する。そのため、測定の時間領域を既存のナノ秒スケールからマイクロ秒スケールまで拡張する。時間相関単一光子計数法をベースとした測定であるため、繰り返し周波数を低下させると、測定が長時間に及ぶ可能性があるが、予備的な実験の結果、10マイクロ秒までの計測(繰り返し周波数にして100 kHz)には成功しており、三重項励起子の計測のフィジビリティを確認済みである。上記の実空間における励起子の拡散情報に、既存の時間分解蛍光スペクトル測定と異方性測定から得た、励起子のエネルギーレベルやその遷移双極子モーメントの配向情報を統合して、様々な角度から励起子拡散ダイナミクスを精査し、その支配因子の解明につなげる。さらに、上記の発光検出型の方法による研究と並行して、過渡吸収検出型の時間分解イメージング装置の構築を行う。過渡吸収イメージングは、電荷キャリアなどの非発光性の過渡種の拡散も直接可視化できる強力な手法である。この手法をTTA-UC系に援用して、従来の発光検出型の方法では可視化が難しかった電子・正孔の時間的・空間的拡散の情報の取得をめざす。
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