研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
23H03992
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高口 博志 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (40311188)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ヒドリド移動 / 化学反応ダイナミクス / 量子状態選別 / 状態選別光イオン化 / イオンガイド反応実験 / 低エネルギー衝突 |
研究開始時の研究の概要 |
反応分子の振動励起、衝突エネルギー、および反応温度を同時に制御したイオン・分子反応実験を行い、10~100 Kの準低温領域での化学反応に対する温度の役割を反応ダイナミクスの手法により解明する。星間化学における主要なイオン化過程であるプロトン化反応と、同じく軽元素移行であるヒドリド移動を対象として、反応経路の進行方向と生成経路分岐の決定要因が、ポテンシャルエネルギーからギブスエネルギーへ推移する様子を実験的に検証する。星間化学環境を反応場とする実験アプローチにより、従来の単一エネルギー条件での散乱理論と熱平衡条件での反応速度論をつなぐ新しい化学反応論を構築する。
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研究実績の概要 |
分子イオンの量子状態と衝突エネルギーを同時制御する点が特長を持つ本実験手法の特長を活かして、これまでにNO+と炭化水素(イソペンタン)のヒドリド移動(NO+ + i-C5H12 → HNO + C5H12+)を対象とした衝突反応実験を行い、特徴的な量子状態依存性と衝突エネルギー依存性の兆候を観測した。低い衝突エネルギー条件で反応確率が増加する傾向は、イオン・分子反応の一般的性質としてランジュバン捕獲モデルに従っていたが、衝突エネルギー幅によってエネルギー依存性曲線は任意性を持ち、反応機構を考察するには正確なエネルギーの評価が必要であった。また、NO+イオンの振動励起によって反応性が大きく抑制された測定結果についても、レーザー光イオン化によるNO+(v=0)とNO+(v=1)の生成比の誤差が、量子状態依存性を考察するために必要な精度の限界を与えていた。光イオンの輸送特性(並進速度分布)を定量的に評価するために、数値シミュレーションを行ったところ、おおよそ実測データを再現する結果が得られた。さらにイオンビーム挙動の詳細を解析するために、光イオン化領域から並進エネルギー制御およびOPIG入射部分の電極に印加する電圧値を変えながら測定したNO+ビームの速度分布の変化と数値シミュレーション結果との比較を行った。集光が必要なレーザー光イオン化における空間電荷効果は、本手法の衝突エネルギー幅を広げる主要因であるが、レーザーパルス内(10ns)で生成される瞬間的なイオン濃度を実験条件と同じ集光体積に設定したシミュレーションから、その影響を数値的に定量化した。低衝突エネルギーでエネルギー幅は著しく広がることが示され、イオン電極の設計・改良に対する基準として参照できる数値シミュレーション手法を確立させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
星間イオン反応系を対象とするためのパルス放電イオン源の動作確認を行い、多様なイオン種の生成と反応実験への適用性を調べている。NO+については、光イオン化法よりもイオン総量は1~2桁ほど大きいが、副生成物(N+、O+)を抑制する生成条件と衝突エネルギーの評価法の検討をしており、反応実験への適用を進められる状況にある。水分子を前駆体としてH2O+とH3O+のイオンビーム生成実験は、光イオン化では生成が難しいこれらのイオン種の反応実験が実行可能であることを示している。一方、星間分子系として本装置の測定対象とすることを目標としているH2+とH3+は、水素試料を前駆体とした実験では十分な生成量が得られていない。水素と混合するバッファ気体を選定して調合することでH3+生成が最適化されると示されている先行研究を参考にして、星間イオン反応系の探索を継続している。 開発を継続する放電イオン源は、生成イオンの多様性とイオンビーム強度に関して光イオン化法と相補的な利点を持つが、放電法のエネルギー分解能・制御性を補完するために、イオンガイド装置の改良を行っている。OPIGを反応セルを中心として、その前後3つの領域に分割して、それぞれ独立にDCオフセット電圧をRFガイド電圧に重畳できるようにした。OPIG入射部分・出射部分ではそれぞれイオン取り込み・引き出し効率を向上させる制御を行い、反応セル内の静電ポテンシャルによって低エネルギー衝突の反応条件を実現する設計である。現在の2分割型OPIGと入れ替えて、放電イオン化法と光イオン化法双方の利点を活かすための調整作業を行っている。放電イオン化源の衝突エネルギー制御性の補完とともに、光イオン化による反応実験でのヒドリド移動と電荷移動を分離するためにも、生成イオン検出の質量分解能の向上させるリフレクトロン質量分析部分の製作を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
レーザー光イオン化による量子状態選択イオン源が本測定装置の最大の特長であるが、放電イオン化源の開発を進めてきた経緯を踏まえて、低速イオンの衝突エネルギー制御を重点的に進めることとする。衝突エネルギー下限とエネルギー幅の狭帯域化には、数値シミュレーションが有効であることを示しており、これにもとづくOPIGおよびイオン電極群の設計・改良・測定の工程サイクルで研究全体を進める。イオンガイド真空装置への設置と調整作業を効率的に行うために、新しく角形真空チェンバーを導入する。真空内電極部品の取り扱いを容易にするポートが配置された設計であり、これまで開発作業の制約となっていた測定・改良の効率を向上させる。 制御エネルギー領域ごとに3分割したイオンガイド反応セルを用いて、NO+と炭化水素系の状態選別反応断面積測定を行い、測定精度の評価・改善をもとにして、反応機構の考察に十分な測定精度を達成する。リフレクトロン型の質量分析器を導入して、1 amuだけ異なるイオン種を生成するヒドリド移動と電荷移動の生成物イオンを分離する。リフレクトロン真空装置に採用する複眼式電極の動作確認のために、イオンガイド装置とは独立に評価実験を行う。数値シミュレーションによる質量分解能の評価を行ったのち、イオンガイド反応装置に取り付ける。 パルス放電ノズルとRFストレージ式イオン源のイオン生成効率を測定して、それぞれの生成条件を確定させる。ストレージ式イオン源の動作確認には、四重極質量分析部分の導入が必要である。これまでに製作した質量分析モードを持つRF共振電源を用いて、主に水素を含むイオン種の生成を確認した後、イオンガイド反応装置に取り付け、星間イオン分子反応を対象とした測定を行う。
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