研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
23H04016
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 弘幸 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00283664)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 有機半導体 / エネルギーバンド構造 / 電荷の局在性 / 電荷の局在・非局在性 / バンド伝導・ホッピング伝導 / ポーラロン / 分子固体 / 電子分極エネルギー / 電子-フォノン相互作用 / 低エネルギー逆光電子分光 |
研究開始時の研究の概要 |
分子性固体で、電荷が局在化するのか非局在化するのかというのは長年の疑問であった。これまで、移動度の低い物質では電荷は局在化して電荷はホッピング伝導、移動度の高い物質では非局在化してバンド的伝導するとされてきた。しかし、吉田らの最近のポーラロン形成や電子分極エネルギーについての研究では、バンド伝導する物質でも電荷が1分子に局在することを示す結果が得られている。本研究は、共役長の関数として分子性固体についてポーラロンや電子分極エネルギーを精査することにより、分性固体中の電荷の非局在・局在を統一的に理解する新たな描像を導く。
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研究実績の概要 |
これまで独自に開発した低エネルギー逆光電子分光により、有機固体中の電荷の電子分極エネルギーや分子ポーラロン形成を研究してきた。その結果、移動度が高く電荷が数分子に非局在化している物質でも、あたかも電荷が一分子に局在化しているように見えることを示してきた。本研究は「どこまで共役を強くしていけば、非局在化するように見えるのか?」という視点から追求している。そのために、強い共役を持つ例として、ポリマーの主鎖方向の伝導帯バンド分散の測定、弱い共役の例として、低分子系の分極エネルギーの精査を進めた。 2023年度は、バンドについてはPBTTTの配向膜について主鎖方向の伝導帯バンド構造を角度分解低エネルギー逆光電子分光法により測定することに成功した。このため、測定法や解析法の改良を行った。今後、価電子帯の測定を進めていく。低分子系については、従来の連続誘電体近似に基づくボルン式による計算よりもより精密な計算ができる分子分極のモデル計算を進めた。今後、計算精度の確認を進めていく。また、分極エネルギーが精密測定のための装置の改良を行った。分極エネルギーを求めるには、固体のイオン化エネルギーと電子親和力の両方を正確に測定する必要がある。このため、ひとつの装置で同じ試料について測定することが不可欠である。そこで低エネルギー逆光電子分光法による電子親和力測定と紫外光電子によるイオン化エネルギー測定が行えるように改良を進めている。同時に低エネルギー逆光電子分光法の信号強度を2倍以上に増加させるための改良も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリマーについては、測定が大変困難であったが、測定法と解析法を確立することができ、一定の成果がでてきている。一方、低分子系については、2024年度の研究に向けての準備を進めた。具体的には以下のとおりである。 1.ポリマーPBTTTの配向膜について、角度分解低エネルギー逆光電子分光法によりポリマーの主鎖方向の伝導帯バンド構造の測定を行った。試料薄膜はブレードコート法により作製した。試料の損傷を評価しながら測定を進め、2次微分やデコンボリューションによるピークエネルギーの決定法を開発しながら解析を進めた。この結果、主鎖方向の伝導帯と帰属されるバンド構造を観測することに成功した。 2.これまでに測定してきた低分子系の分極エネルギーについて、連続誘電体を仮定したボルン式により局在半径を見積もってきた。これに対して、計算の精度を上げるため、分子分極率を考慮した計算を進めている。最初の例として、ペンタセンの薄膜相についてのモデル化を進めている。 3.分極エネルギーを精密に測定するため、既存の低エネルギー逆光電子分光装置の改良を行った。光の集光効率を上げるため、光学系を検討し、レンズに代えて回転楕円鏡を取り付けた。また、同時に紫外光電子分光が測定できるように、阻止電場型電子エネルギー分析装置を導入した。現在、装置の調整を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
①ポリマーについては、PBTTTの価電子帯のバンド分散測定を行う。その後、ドーピングすることで電荷を注入したポリマー試料について、伝導帯・価電子帯のバンド分散測定を試みる。注入した電荷量とバンドギャップ、フェルミ準位の位置などを精査することで、電荷の局在・非局在性についての知見を得られるはずである。 ②低分子系の精密な分極モデルに基づき、分極エネルギーの計算をする。これを出発点として、電荷の局在・非局在と分極エネルギーの関係を明らかにする。 ③時間と波束の拡散をモデル化し、局在性・非局在性とタイムスケールの関係を考察する。 ④結晶性と非晶性の低分子系有機半導体薄膜について、分極エネルギーを精査する。
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