研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
23H04089
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山下 忠紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00827339)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | アルギン酸 / 曲率 / インテグリン / 血管平滑筋細胞 / 細胞結合リガンド / ハイドロゲル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、細胞が接着できる新しいアルギン酸素材を直径0.1-1mmの精緻な球形に加工する技術を開発する。直径と接着素材を変えながら、細胞内で起こる情報伝達の変化を解析し、「細胞が接着面の曲がり具合を検知する仕組み」を明らかにする。このような試みを通じて、「細胞の振る舞いを思い通りにコントロールするために、人工材料はどのような化学組成を持ち、どのような形状をしているべきか」を理解することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究が目的とする、細胞結合リガンドと足場形状に基づく細胞の表現型操作を達成するため、アルギン酸側鎖に細胞結合リガンドcRGD基もしくはGFOGER基を導入したcRGD-アルギン酸およびGFOGER-アルギン酸の合成に取り組んだ。既報の合成手法を用いて、シクロオクチル基を導入したBCN-アルギン酸を合成した。次に、末端にアジド基を持つcRGDペプチド、GFOGERペプチドを、それぞれクリック反応を介してアルギン酸側鎖に導入した。cRGD基はフィブロネクチン、GFOGER基はコラーゲンをそれぞれ模した細胞結合リガンドであり、それぞれ異なる種類のインテグリンと結合する性質を持つ。cRGD-アルギン酸およびGFOGER-アルギン酸の水溶液に、塩化カルシウム水溶液を加えることでハイドロゲル化させ、血管平滑筋細胞を培養したところ、それぞれ異なる形態でハイドロゲル上に接着・伸展した。この実験結果から、細胞接着性のアルギン酸誘導体を合成できたことを確認した。特に、コラーゲンを模した細胞結合リガンドを有するGFOGER-アルギン酸の合成はこれまでに報告がなく、全く新しい細胞培養素材としての応用が期待される。 本研究は一方で、細胞を球状閉空間内で培養するため、アルギン酸カルシウム製中空球の加工技術の開発に取り組んだ。中空二層同軸針からアルギン酸水溶液とPBSを吐出し、塩化カルシウム水溶液に滴下することで、直径2-3mm程度のアルギン酸製中空球を作製する技術を開発した。本技術は、蛍光ビーズをはじめとするマイクロ粒子を、アルギン酸カルシウム製中空球内に簡便に封入できる技術であり、今後は生きた細胞の封入への応用を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞接着性アルギン酸を合成する過程で、中間体であるBCN-アルギン酸の合成において当初予期しない問題が生じた。アルギン酸側鎖のカルボキシル基をEDC/NHSを用いて活性化した後、BCN-アミンを反応させることでBCN-アルギン酸を得るが、精製・凍結乾燥後の生成物の大部分が純水に再溶解せず、BCN-アルギン酸の収率が1%に満たなかった。反応に用いるEDC、NHS、BCN-アミンの量を系統的に振り、不溶物が生成する原因を探ったところ、カルボキシル基の活性化に使用したEDCが過剰なとき、BCN基がアルギン酸に過剰に導入され、凍結乾燥時にアルギン酸同士が架橋されることが分かった。最終的に、架橋反応を避けることができる適切なEDC量を見出し、BCN-アルギン酸の収率を60%まで向上することができ、問題を解決することができた。 BCN-アルギン酸の合成において予期せぬ困難が生じた一方で、アルギン酸のビーズ状および中空球状の加工法の開発は予想以上に早く進展したため、全体としては予定の範囲で計画を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に開発したcRGD-アルギン酸、GFOGER-アルギン酸の細胞培養場としての特性を評価し、細胞の表現型操作に取り組む。これらの素材で作製した細胞培養足場上で血管平滑筋細胞を培養し、その形態や表現型マーカーの発現量の違いを評価する。さらに、培養した細胞を回収して、RNA-seq法を用いて細胞が持つmRNA発現量を網羅的に解析する。これらの解析を通じて、それぞれの細胞結合リガンドが細胞の表現型に与える影響と、これらの違いを生み出す細胞内シグナルの特定に取り組む。 また、これらの細胞接着性アルギン酸を異なる直径を持つビーズおよび中空球に加工し、血管平滑筋細胞を培養する。そして、足場の曲率が細胞の表現型および細胞内シグナルに与える影響を調査する。特に、血管平滑筋細胞の表現型マーカーであるαSMA、カルポニン、オステオポンチン、S100aの発現量に注目して、表現型の解析を行う。 以上の試みを通じて、足場素材の開発に基づく細胞の表現型操作の原理の実証に取り組む。
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