研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04100
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00292772)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 機械学習 / 原子間ポテンシャル / 超秩序構造 / 第一原理計算 / イオン移動 |
研究開始時の研究の概要 |
次世代電子素子中の超秩序構造の原子レベルの詳細の解明は、実験でも第一原理計算でも難しい課題である。本研究では、第一原理計算データと機械学習の組み合わせにより高い予測性能と軽い計算負荷を両立しうる機械学習ポテンシャルを、超秩序構造の荷電状態や系への電場印加等も考慮できるよう高度化し、また機械学習ポテンシャルを用いた計算結果を基に原子構造と物性との相関を解析する手法もパーシステントホモロジー等を用いて高度化する。その上で、機械学習ポテンシャルを用いた解析を様々な系に対して行い、超秩序構造の原子レベル構造、その成長等の原子ダイナミクス、および超秩序構造と物性との相関を解明する。
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研究実績の概要 |
本年度の実績は以下の通りである。 まず超秩序構造の荷電状態を考慮できる機械学習ポテンシャル(MLP)については、GaNのN空孔生成エネルギーの大きな誤差を改善するために高荷電状態(+3価の空孔)の第一原理計算結果を訓練データに加えてMLP構築を試み、予想通り生成エネルギーの誤差を改善できた。しかし熱伝導率については第一原理計算結果との一致が良いとは言えず、この点の改善は今後の課題である。次に、各原子に働く力の電場印加に応答した変化を考慮できるMLPに関連して、我々が開発したニューラルネットワーク(NN)モデルによるボルン有効電荷の予測を当該領域A03公募班の旭のグループが作成したグラフNNによる予測と比較した。我々のモデルが妥当であることを確認できたと共に、この研究の過程で訓練に用いたボルン有効電荷の第一原理計算データの一部に精度上の問題があることが判明した。 当該領域A01-2班の若林との共同研究であるWS2薄膜中の欠陥構造に関する解析については、単層および薄膜WS2単体におけるS空孔周辺の構造緩和とこの欠陥の移動挙動について解析を終え、論文を執筆中である。さらに、SiO2基板上のWS2薄膜を解析するためのMLPの作成に取り組み、本格的計算に要する予測精度をほぼ満足するMLPを作成できた。 超秩序構造の原子構造と物性の相関の解析法の確立とその応用については、アモルファスTa2O5におけるイオン移動挙動を解析する準備として進めている分子動力学計算において、高温で異常な構造が出現する問題を克服できていない。次年度にこの点の克服に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の内容は、3つのサブテーマに分けることができる。 第1のサブテーマである超秩序構造の解析のための機械学習ポテンシャル(MLP)の高度化については、超秩序構造の荷電状態を考慮できるMLPと各原子に働く力の電場印加に応答した変化を考慮できるMLPのいずれについても、おおむね順調に研究が進み、残された課題もより明確になった。 第2のサブテーマであるMLPを用いた解析についても、WS2薄膜の構造に関する解析を着実に進めることができた。 他方、第3のサブテーマである超秩序構造の原子構造と物性の相関の解析法の確立とその応用については、解析の準備段階である構造データ作成の段階での問題がまだ克服できていない。この点に鑑み、進捗が予定よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず超秩序構造の解析のための機械学習ポテンシャル(MLP)の高度化については、各原子に働く力の電場印加に応答した変化を考慮できるMLPに注力する。ボルン有効電荷のニューラルネットワークによる予測に残っていた系統的な誤差の原因が密度汎関数法計算データの一部における精度の問題という可能性が高まったので、データを精査の上、問題のあるものは再計算し、より精度を高める。一方、他の系への応用可能性を確認するため、ZrO2に対してこの方法論を適用し、電場印加下のイオン挙動を調べる。また、前年度の研究で欠陥の近傍や粒界等でボルン有効電荷がバルクと大きく変わることもわかってきた。ボルン有効電荷は誘電特性においても重要なので、機械学習ポテンシャルという本研究の主目的からは外れるが、ボルン有効電荷の振舞いの密度汎関数法計算による解明も進める。 WS2薄膜の欠陥構造に関する解析については、薄膜WS2単体についての結果を早急に論文にまとめるとともに、SiO2基板上のWS2薄膜解析について、前年度に作成したMLPについて精度を高める微調整の後、このMLPを用いた欠陥の構造の解析を、WS2薄膜単体の場合との違いに注目して進める。さらに、明らかになった構造を基に電気特性の解析を進める。 超秩序構造の原子構造と物性の相関の解析法の確立とその応用については、アモルファスTa2O5用のデータ取得について、計算条件やハイパーパラメータの影響をより徹底的に調査し、年度の早い段階で克服したい。その上で、A03-2班志賀・大林と共同でパーシステント図等を用いた中距離秩序の解析を進める。並行して、Li3PS4等、本研究室で密度汎関数法計算データを多数有する他の系について、同様に中距離秩序の解析を進める。
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