研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04125
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
新井 栄揮 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 上席研究員 (00391269)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | 超秩序構造 / タンパク質 / 磁覚 / 量子ビーム / 鉄硫黄蛋白質 / X線・中性子小角散乱 / XAFS |
研究開始時の研究の概要 |
カワラバト由来鉄硫黄クラスター輸送蛋白質ISCA1は、磁場応答的に柱状多量体化する稀有な性質を有し、カワラバトの磁場感知能力「磁覚」に寄与している可能性がある。本提案では、ISCA1柱状多量体を当該領域の重点研究対象「結晶/非晶質境界の超秩序構造」に位置づけ、ISCA1の溶液構造や多量体化の主要因と推測される鉄原子の配位構造・電子状態及びそれらの生物種依存性などを領域内連携によって明らかにし、磁場応答的超秩序構造化機構の解明を目指す。得られる知見は、現在の生物学の最大の謎の一つとされる磁覚の機構解明に資するとともに、従来の生物学の範疇を超えた新たな学術体系の基礎構築や新奇磁性材料の創出等に資する。
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研究実績の概要 |
蛋白質は、高次構造形成に伴って線維化・結晶化や天然変性領域のリフォールディングなどの秩序構造化を伴うといった、「完全秩序を持つ結晶」と「完全無秩序なアモルファス」の中間相である「超秩序構造」の特徴を有する。その超秩序構造性は、主に静電相互作用・水素結合・疎水性相互作用・ファンデルワールス力になど起因するが、カワラバト由来の鉄硫黄クラスター輸送蛋白質ISCA1では例外的に磁場に応じた秩序構造化(柱状多量体化)を生じる。本課題では、ISCA1多量体のトポロジカルな特徴や分子挙動の磁場応答性の生物種による類似点・相違点、磁場応答性の起源などを明らかにし、蛋白質超秩序構造と磁性との新たな関係性や、その生物学的な意義(動物が磁場情報を知覚化する能力「磁覚」とISCA1との関係性など)の解明を目指している。 2023年度は、代表的磁覚保有種であるヨーロッパコマドリと磁覚の有無が不明なヒトのISCA1について、大腸菌遺伝子組換えによる大量発現・調製系の構築に成功した。また、これらのISCA1の溶液構造や磁場応答性などを、180mT静磁場印加のもとでX線小角散乱法(SAXS)により明らかにし、カワラバト由来ISCA1の先行研究の知見と比較した。本研究の結果、①ISCA1の磁場応答性は補因子である単核鉄イオンに強く依存し、鉄を除去したホロ型ISCA1は磁場印加しても多量体化しないこと、②磁場印加時のISCA1の分子挙動や多量体構造は生物種によって異なることなどが明らかになった。特に、ヒトのISCA1も磁場に応答するなど、生物学的・物質科学的に極めて興味深い現象を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の成果や活動を総合的に鑑みて、おおむね順調に進展していると判断した。
【研究活動】 2023年度は、①当領域のA01班・A03班と連携して、鳥類だけでなくヒトのISCA1を作製する実験プロトコルを確立するとともに、②当領域のA02班と連携して、SAXSやX線吸収微細構造解析(XAFS)などの量子ビーム技術を駆使して多様な生物種のISCA1の構造・磁場応答性を解析するための技術基盤を構築した。特にXAFS測定においては、ISCA1に結合した鉄の配位状態を調べるための溶液フローセルや試料冷却技術を開発することができた。現在、前述の各生物種のISCA1のXAFS解析を進めている。これら2023年度に蓄積した試料調製技術や各種測定実験技術を活用することで、2024年度はより多様な生物種のISCA1の超秩序構造性・磁場応答性を解析することが可能になる。また、磁覚の有無が不明なヒトのISCA1も磁場応答的に秩序構造化するという発見は予想外かつ特筆すべき事項であり、蛋白質超秩序構造と磁性との関係性・普遍性を追求するうえで重要な基礎情報となりうる。
【成果普及活動など】 将来的には、本学理の構築・発展に多くの人材が必要となると予想されることから、2023年度は産学官の多機関での講演や富山中部高等学校スーパーサイエンスハイスクールでの講義などを複数回実施するなど、分野外や一般向けの成果普及にも注力した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究では、ヨーロッパコマドリ・カワラバト・ヒトのISCA1において磁場印加時の分子挙動や超秩序構造性に違いがあることが明らかになった。例えば、アミノ酸配列相同性が高いヨーロッパコマドリのカワラバトのISCA1(アミノ酸配列相同性95%)であっても磁場印加時の秩序構造化の様相が異なっていた。これらの差異はISCA1に補因子として結合している鉄の電子状態・配位状態の違いに起因すると推測された。そこで2024年度は、より多様な生物種のISCA1の秩序構造性・磁場応答性・鉄の電子状態や配位状態を精査する研究を展開する。具体的には、①鳥類以外の磁覚保有種である一部の昆虫・魚類・哺乳類(オオカバマダラ・サケ・ミンククジラ・マウス等)や磁覚の有無の再考の必要性が指摘されている代表的動物(ショウジョウバエ)のISCA1を追加作製するための大腸菌遺伝子組換えによる発現・調製系を構築する。また、②上記生物種のISCA1のSAXS測定等を行い、前年度までに実施したヨーロッパコマドリ・カワラバト・ヒトのISCA1のSAXS解析結果等と比較することで、磁場印加時のISCA1の磁場応答性やISCA1多量体のトポロジカルな共通点・相違点の抽出を試みる。更に、③ISCA1に結合した鉄の配位状態や電子状態をXAFSや電子スピン共鳴(ESR)などの手法により明らかにするとともに、それら鉄とISCA1の超秩序構造性・磁場応答性との関係性の計算科学的解明を試みる。得られた知見を総合し、蛋白質の超秩序構造性と磁性との関係性を多角的観点から明らかにする。
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