研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
23H04187
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | レッドクス / NAD(P)(H) / シロイヌナズナ / 転写開始点制御 / NADKc / カルモジュリン / レドックス / 明暗環境 |
研究開始時の研究の概要 |
植物は変動する環境にさらされながら、これに適応して生育している。NAD(P)(H)は、全ての生物が細胞内酸化還元反応に用いる電子伝達物質である。呼吸などの異化反応ではNAD+とNADHが、光合成や脂質合成などの同化反応ではNADP+とNADPHが使用されることに加え、NADPHは活性酸素種の消去系に使用されることから、NAD(P)(H)の量やバランスの変化は植物の環境応答や成長に大きく影響を及ぼす。しかし、これらが環境要因に対してどのように変化し、植物に環境適応をもたらしているのかについては不明な点が多い。本研究では不均一・不規則な環境下において植物が発揮するレジリエンスに寄与するNAD(P)(H)バランス制御の分子機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
自然環境下で植物は、様々に変動する環境条件に応答して細胞内代謝の切り換えを行っていると考えられる。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNAD(P)(H)は全ての生物が生体内の酸化還元反応に用いる電子伝達物質であり、その量やバランスの変化は光合成や呼吸・活性酸素消去系などを介して植物の生育に大きな影響をもたらす。本研究では、不均一環境下におけるNAD(P)(H)バランス制御のメカニズムを解明し、植物の成長と物質生産を統御するレジリエンス機構を明らかにすることを目的としている。 シロイヌナズナにおいて、複数の転写開始点制御を受け、4種類の長さの異なる翻訳産物を生じる因子としてカルモジュリン/カルシウム依存的なNADキナーゼ活性を見出した。本因子は、これまで知られているNADKに保存されたNADKモチーフを持たないという特徴がある。当該年度は、4種類の翻訳産物(NADKc.1-NADKc.4)の細胞内局在解析を中心に行った。GFPとの融合タンパク質としてシロイヌナズナで発現させ、共焦点レーザー顕微鏡観察を行った結果、最も長いNADKc.1はミトコンドリアをはじめとして葉緑体膜や葉緑体内にも局在するマルチターゲティング性を示した。一方、NADKc.2とNADKc.3はサイトゾル局在であることが示されたが、NADKc.4についてはGFPのシグナルを検出することができなかったため、タンパク質として不安定である可能性が考えられた。また大腸菌を用いてリコンビナントタンパク質を発現・精製した結果、NADKc.1とNADKc.2のみがカルモジュリン/カルシウム依存的な活性を示した。これらの結果は、4種類の転写産物が細胞内でそれぞれ異なった生理機能を有している可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NADKcはカルモジュリン/カルシウム依存的なNADキナーゼであり、これまでに知られていたNADKとは相同性を示さない。その変異体は、フラジェリンタンパク質によって誘導されるOxidative burstが抑制されることから、カルシウムシグナルが発動される特別な条件下でのみ活性を示すNADKであると考えられている。本研究により、NADKc遺伝子からは4種類の長さが異なるタンパク質が翻訳されることが考えられ、それらは、細胞内局在や酵素活性の観点で異なった特徴を示すことが示された。このため、これまで考えられていたような1遺伝子から1つの機能を持つタンパク質が作られるという概念を根本から覆す発見となっている。今後、それぞれの分子種を変異体に導入し、表現型が相補されるかを調べることにより、個々の分子種の生理機能に迫れる見通しが立ったと言える。これにより、概ね順調に研究は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
4種類の長さの異なるNADKcタンパク質のそれぞれの機能を明らかにするため、引き続き研究を行う。第一に、唯一GFPのシグナルが検出されず細胞内局在が特定されていないNADKc.4については、環境要因によりタンパク質が分解されている可能性を考え、暗所で育てた芽生における観察を試みる。また、単独でカルモジュリン/カルシウム依存的なNADK活性が検出されなかったNADKc.3とNADKc.4については、NADKc.1やNADKc.2と相互作用してそれらの酵素活性を阻害する因子として機能する可能性が考えられる。そこでこれらのリコンビナントタンパク質を用いた生化学的解析により酵素活性測定を行う。また、タンパク質構造が変化することにより、基質が従来のものから変化する可能性についても検討を進める予定である。また、シロイヌナズナ変異体に4種類の分子種(NADKc.1-NADKc.4)を発現させることにより、どの分子種がoxidative burstへのNADP供給に関与している分子種なのかについても調べる予定である。これにより、植物のストレス応答における転写開始点制御の重要性を示す。
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