研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
23H04198
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 明治大学 (2024) 名古屋大学 (2023) |
研究代表者 |
田畑 亮 明治大学, 農学部, 専任准教授 (30712294)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 不均一土壌環境 / 鉄欠乏ストレス応答 / 長距離シグナル / ペプチド / 植物栄養学 / 鉄欠乏応答 / ペプチド分子 / 不均一環境 |
研究開始時の研究の概要 |
植物は生育に必要な14種類の無機栄養を土壌から吸収し成長する。植物は脳や神経を持たない代わりに、維管束を利用し、根と葉のコミュニケーションによって環境ストレスに柔軟に適応している。しかし、土壌の栄養が欠乏し、ストレスを感じた時に「植物はどのように空腹を感知し、その情報を全身に伝え、栄養吸収を促すことで成長を維持しているのか?」は、未解明な点が多い。本研究では、光合成や代謝反応に必須の「鉄」に着目し、分析化学・イメージング解析・有機合成化学の手法を駆使して、根から空腹を伝える「空腹シグナル」と、根へ栄養吸収を促す「指令シグナル」の2つの分子を中心とした制御系を支える長距離シグナル解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、土壌中の不均一な「鉄」栄養環境に応答した植物の空腹・指令シグナルに着目し、根と葉の間の長距離シグナルの分子メカニズムを明らかにし、これにより、根と葉という離れた器官を連動させ環境に柔軟に適応する植物は、どのように生命機能を生み出し維持しているのかを解明することを目的とし た。 これまで、Split-root「鉄」欠乏培養法によるシロイヌナズナ時系列RNA-seq解析から、「葉から根」へ移動して「根」における鉄吸収を促進する指令シグナル候補分子として中分子ペプチドIRON MAN(IMA)を単離してきた。IMA八重変異体(ima8x)では、不均一な鉄欠乏に応答した鉄吸収関連遺伝子の相補的なmRNA発現上昇制御が完全に阻害されていた。シロイヌナズナ接木実験により、このima8xにおける不均一鉄欠乏環境での相補的な遺伝子発現制御の不全は、ima8xの地上部を野生型に置き換えることで回復した。加えて、ima8xに対してIMA1とIMA3を回復させたima6x変異体では、不均一な鉄欠乏での相補的な遺伝子発現応答が野生型と同様のレベルにまで回復した。したがって、鉄関連遺伝子の相補的発現制御には、シロイヌナズナが持つ8個のIMAペプチドのうち、特にIMA1とIMA3が重要であることが明らかとなった。 また、一部の根が鉄欠乏にさらされた際に葉で発現が誘導される「分泌型システインリッチペプチドCRP」にも着目したが、野生型と比較して、鉄欠乏応答性転写因子の発現量や、鉄含量は野生型と差が見られなかった。一方で、crp破壊体では冠水実験による生存率の低下が観察された。今後は、CRPを軸として、「鉄欠乏ストレス」と「低酸素ストレス」の関連性を明らかにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不均一土壌栄養環境(局所的な鉄欠乏)に応答して、「葉から根」へ移動して「根」における鉄吸収を促進する指令シグナル候補分子として中分子ペプチドIRON MAN(IMA)に着目した。IMA八重変異体(ima8x)では、不均一な鉄欠乏に応答した鉄吸収関連遺伝子の相補的なmRNA発現上昇制御が完全に阻害されていた。シロイヌナズナ接木実験により、このima8xにおける不均一鉄欠乏環境での相補的な遺伝子発現制御の不全は、ima8xの地上部を野生型に置き換えることで回復した。さらに、GFP-IMA融合タンパク質発現個体を使用した接木実験から、IMAの葉から根への移動性が示唆されたため、地上部で発現誘導されたIMAsは地下部へと移動し、まわりに鉄が十分に存在する根において相補的な遺伝子発現応答を引き起こすことが考えられた。加えて、ima8xに対してIMA1とIMA3を回復させたima6x変異体では、不均一な鉄欠乏での相補的な遺伝子発現応答が野生型と同様のレベルにまで回復した。したがって、鉄関連遺伝子の相補的発現制御には、シロイヌナズナが持つ8個のIMAペプチドのうち、特にIMA1とIMA3が重要であることが明らかとなった。このように、不均一土壌環境における植物の長距離シグナルを介した鉄獲得戦略について、IMAの重要性が明らかになりつつあるため、順調に進んでいると考えられる。 また、一部の根が鉄欠乏にさらされた際に葉で発現が誘導される「分泌型システインリッチペプチドCRP」にも着目し、野生型と比較して、鉄欠乏応答性転写因子の発現量や、鉄含量は野生型と差が見られなかったものの、crp破壊体では冠水実験による生存率の低下が観察された。CRPを軸として、「鉄欠乏ストレス」と「低酸素ストレス」の興味深い関係性が見えつつある。
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今後の研究の推進方策 |
不均一鉄栄養環境において、IMAがどのようにして「葉から根」へ移動するかイメージング解析を実施する。また、葉から根へと移動してきたIMAが、どのように鉄輸送体IRT1の転写を活性化するか明らかにするため、質量分析装置を用いた解析により、指令シグナルと細胞内シグナル伝達を繋ぐハブとなる新規分子同定を試み、その制御メカニズムを解明する。 また、地下部の鉄欠乏処理によって地上部で発現誘導される「分泌型システインリッチペプチドCRP」が、どのように低酸素ストレス応答と鉄欠乏応答に関与しているか明らかにする。
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