研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
23H04207
|
研究種目 |
学術変革領域研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
塚越 啓央 名城大学, 農学部, 教授 (30594056)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
|
キーワード | 遺伝子発現制御 / 発生・発達 / 温度応答性 / VLCFA / 不均一生育デバイス / 極長鎖脂肪酸 / 根の成長 / 遺伝子発現 / 不均一生育環境 / 熱形態形成 / 転写ネットワーク |
研究開始時の研究の概要 |
地球温暖化による大気温度の上昇は、植物の成長に大きな影響を及ぼす。生育周囲温度が高くなると、植物は熱形態形成と呼ばれる成長様式を示し、周囲温度に対するレジリエンスを発揮する。地表と地下では大気と土壌といった媒質の違いから、同一個体でも器官間の周辺温度は一定ではない。植物はこの不均一性を感受し、地上部と根で異なる制御系により熱形態形成をしめす。本研究は地上部と地下部を異なる温度で生育させ、不均一温度下での根の成長メカニズムを明らかにすることを目的とする。特に、極長鎖脂肪酸(VLCFA)が制御する転写ネットワークに着目して、VLCFAをシグナル分子とする新たな根の成長メカニズムの解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
高温時に極長鎖脂肪酸(VLCFA)が制御する根の熱形態形成に関わる分子メカニズムを明らかにするため、当該年度は22度と28度で生育させたシロイヌナズナ野生型株(Col-0)とVLCFA合成酵素遺伝子欠損株を用いたRNAseq解析を行った。その結果、根においてCol-0では約1000の遺伝子が28度において発現が上昇し、約300の遺伝子の発現が低下していた。一方で、VLCFA合成酵素遺伝子欠損株では、28度の根において約300の遺伝子が発現上昇し、約150遺伝子の発現が低下していた。この結果から、VLCFA量が低下した植物では28度において発現応答する遺伝子が減少することがわかった。具体的には二次代謝産物合成に関わる遺伝子がVLCFA合成酵素遺伝子欠損株で特異的に発現上昇し、細胞壁構築に関わる遺伝子群が特異的に発現減少していた。正常な根での熱形態形成時にVLCFAがこれらの遺伝子群の発現調節をしていることを示唆している。 このRNAseq解析から、VLCFA合成酵素遺伝子欠損株で顕著に熱応答性を欠く、数十の転写因子遺伝子を同定した。ストレス応答に関わる転写因子や、機能未知の転写因子群が含まれ、これらの機能解析を進めることで、VLCFAシグナルが熱形態形成にどのように関わるかを明らかにできる。 また、地上部と根を異なる温度で生育させるデバイスの開発も進めた。ペルチェ素子とヒートシンクの組み合わせをいくつか試行した。その結果、当該年度に、安定して根の生育温度を地上部より低く保つことができるデバイス開発に成功した。このデバイスを用いて、不均一環境における根の成長様式を解析したところ、均一環境で起こる根の成長様式と不均一環境で起こる根の成長様式が異なる結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に行うと申請書に記述したVLCFA下流の遺伝子発現を解析することができた。具体的にはシロイヌナズナ野生型株Col-0とVLCFA合成酵素遺伝子欠損株を用い、22度と28度で生育させた根のRNAseq解析を終了した。この解析から、VLCFA量の低下により、28度での遺伝子発現に差異が生じること、いくつかの興味深い転写因子を同定することができている。また、GCMS解析も進め、28度では22度に比べ極長鎖脂肪酸の量が増加する結果も得た。これらのデータから、根での熱形態形成においてVLCFAが重要な役割を果たすことを示すことができた。 また、地上部と根を異なる温度で生育させるデバイスの構築も進めた。当初は、このデバイスのプロトタイプをいくつか試作する予定であった。しかし、安定して地上部と根の生育温度を変化させるデバイスの構築に成功した。このデバイスを用いて、実際に温度不均一環境でのシロイヌナズナ生育様式の定量、また、予備的な遺伝子発現解析を進めることができ、不均一環境デバイスによる生理学的実験も進めることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、以下に示す研究を中心に進める。 (1)VLCFA下流の遺伝子発現 前年度に行ったRNAseqからVLCFAに応答して28度条件で発現上昇を示すいくつかの転写因子遺伝子を同定している。この転写因子遺伝子の過剰発現株や遺伝子破壊株を取得しているので、これらの形質転換体を用いて、根の温度応答性を解析する。また、最も顕著に表現型を示した変異株に関してはRNAseq解析を進め、どのような遺伝子発現ネットワークに影響を与えるか網羅的に解析する。 (2)温度不均一環境デバイスを用いた根の熱形態形成の解析 前年度に作成した温度不均一デバイスを用いて、根の表現型、VLCFA含有量、遺伝子発現変化を解析する。(1)で解析を進める転写因子遺伝子変異株も同システムで生育させ、温度不均一環境がどのようにこれら転写因子に働きかけるか解析を進める。これらのデータを統合することにより、これまでに報告がないVLCFAによる、根の熱形態形成の分子メカニズムを明らかにして国際誌に投稿論文としてまとめる。また、現在行なっている不均一温度は一点の温度のみであるため、複数の温度変化による解析を進め、植物が地上部と根でどれほどの不均一環境を許容して生育状態を変化させているかの解析も進める。
|