研究領域 | 脳の若返りによる生涯可塑性誘導ーiPlasticityー臨界期機構の解明と操作 |
研究課題/領域番号 |
23H04228
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2024年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | ショウジョウバエ / 歌識別学習 / 興奮性:抑制性バランス / GABA / ドーパミン / 神経回路 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトは幼児期に周囲の会話を聞いて、その言語固有の特徴音を識別する能力を発達させる。この発達が起こる「臨界期」では、受けた経験に依存して神経回路機能が調節される。この過程で、感覚情報を処理する神経回路への興奮性入力と抑制性入力のバランス(E:I balance)が重要とされているが、その調節機構の全体像は不明である。これまでに私たちは、臨界期研究の新規モデル系として「ショウジョウバエの歌識別学習パラダイム」を確立した。そこで本提案では、ハエの歌識別学習の成立機構の解明に、E:I balanceに着目して挑む。さらにその成果を、脊椎動物とも共通する分子・神経機構の理解につなげる。
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研究実績の概要 |
幼児は周囲の会話を聞くことで、その言語固有の特徴音を識別する能力が発達する。これら音声認識学習は「臨界期」と呼ばれる特定の時期に顕著であり、成熟後は、学習を担う神経回路の可塑性は低下する。しかし近年、成熟動物で臨界期を再開できる可能性が示されてきた。これは、臨界期での可塑性を担う神経機構が、臨界期の人為的な再開誘導の標的になりうることを意味しているが、それら機構の理解はいまだに限定的である。 近年我々は、音声認識学習のメカニズム研究を進めるモデルとして、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の歌識別学習パラダイムを確立した。ショウジョウバエは「求愛歌」と呼ばれる種に固有な羽音を用いて求愛する。この求愛歌は近縁種間で異なるリズムを持ち、異種間交配を避ける一要因となる。本研究では、このキイロショウジョウバエモデルを用いて、歌識別学習の神経回路機構の解明を目指した。 これまでに私たちは、ドーパミン阻害剤やアゴニストの投与が、歌識別学習に影響を与えることを見出した。当該年度ではこれを受けた解析を進め、ショウジョウバエの交尾意思決定にかかわると考えられているニューロン集団におけるドーパミン受容体の発現が、正常な歌識別学習に必要であることを見出した。また、同定したニューロン集団と神経接続する、求愛受け入れを担う神経回路およびそれを構成するニューロンを、ショウジョウバエの全脳コネクトームデータベースの探索により同定した。以上の成果により、歌識別学習におけるドーパミンシグナルの必要性を示し、それが機能する神経回路モデルを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、キイロショウジョウバエの歌識別学習の成立機構を、「オクトパミンからGABAへのシグナル」と「ステロイドホルモンとドーパミンの協調作用」の作用機序を軸にして解明することを目的としている。これまでの解析からドーパミンの寄与は示唆されたが、関与する受容体はステロイド受容体共役型以外にも存在する可能性が示された。複数種のドーパミン受容体による異なる性質の制御が存在する可能性がある。またオクトパミンの関与については、関与する受容体の候補を見つけつつある段階である。これらの解析を続けることで、オクトパミンやドーパミンがどのように歌識別学習を制御するのか、そのメカニズムに迫れると期待できる。また、ドーパミンが作用するタイミングの決定を目指したが、熱遺伝学を用いた方法ではうまく絞込みができなかった。その要因は、熱による行動異常が生じたためと考えられる。他の方法に切り替えて実験を進めることで、目的が達成できると考えている。以上の成果により、本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
年度に引き続き、音声認識学習のメカニズム研究を進めるモデルとして、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の歌識別学習パラダイムを利用する。これまでに得た知見を活かしてドーパミンが作用するタイミングの決定を行うため、オーキシンを用いた化学遺伝学を用いた方法の確立を目指す。これまでに関与が示唆されている複数種のドーパミン受容体やオクトパミン受容体の発現を時期特異的に交尾意思決定にかかわるニューロン集団で抑制し、生育段階のどのタイミングでのそれぞれのシグナルがどのように歌識別学習の成立に関わるかを決定する。また、ドーパミンシグナルの由来を同定するため、歌識別学習に必要なドーパミンニューロンの同定も行う。近年公開された、ショウジョウバエの全脳コネクトームデータベースの探索により候補となるニューロン群を同定し、RNAi法によりそれぞれのドーパミン産生を抑制した際の行動表現型を解析する。この解析を体系的に進めることで、責任ドーパミンニューロンを同定する。以上の一連の解析から、臨界期での可塑性を担う神経機構の一端を、ショウジョウバエを用いた研究から明らかにすることを目指す。
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