研究領域 | DNAの物性から理解するゲノムモダリティ |
研究課題/領域番号 |
23H04272
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 耕三 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
13,000千円 (直接経費: 10,000千円、間接経費: 3,000千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 染色体 / 細胞 / 癌 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、分裂期染色体の可塑性に着目し、それがどのように染色体分配に影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とする。分裂期の染色体は、凝縮して個別化される一方、染色体分配の過程で大きく形状を変化させる。しかしこの変形の背景にある物理的特性や、その正確な染色体分配への寄与についてはよくわかっていない。本研究では、染色体の構築を様々な手法で変化させた場合の染色体の可塑性を調べると共に、それが染色体分配に及ぼす影響を明らかにする。本研究の成果は、マクロレベルでのゲノムモダリティの理解につながると共に、多くのがんで見られる染色体不安定性の成因の解明にもつながることが期待される。
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研究実績の概要 |
これまでの研究において、網膜色素上皮細胞株RPE-1と骨肉腫細胞株U2OSを用いて、染色体末端の繰り返し配列に特異的なsgRNAにアプタマー配列を付加し、dCas9およびアプタマー配列への結合部位を有するGFPタンパク質と共に発現させることにより、染色体末端をGFPで可視化した細胞を作成している。これらの細胞を用いて、2023年度には以下のような成果が得られた。 i) 動原体-微小管結合の状態による染色体の可塑性の評価 Eg5阻害剤処理によって生じた単極紡錘体上で、側面・末端結合での染色体の可塑性を観察した。1つの姉妹動原体のみが末端結合しているモノテリック結合では、両方の姉妹動原体が同一の紡錘体極と結合しているシンテリック結合と比べて、染色体両腕の作る角度が大きく、これは微小管に対する姉妹染色体の位置関係の違いによることが示唆された。 ii) 染色体の長さが可塑性に与える影響の評価 染色体数が少なく (12本) 、個々の染色体の判別が容易なPtK1細胞で、Eg5阻害剤処理によって生じた単極紡錘体上での染色体の可塑性を検討した。その結果、長い染色体はセントロメアだけでなく、腕部の途中でも折れ曲がることがわかり、高い可塑性を持つことがわかった。 iii) 染色体の長さによる染色体動態の違いの解析 本研究のために、これまでの特定の染色体のテロメア近傍を可視化した細胞だけでなく、セントロメア近傍を可視化したRPE-1細胞を樹立した。この細胞を用いて、染色体分配の過程における、長さの違う染色体の紡錘体上での位置を比較したところ、長い染色体は紡錘体の表面に位置する頻度が高いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、i) 動原体-微小管結合の状態による染色体の可塑性の評価、ii) 染色体の長さが可塑性に与える影響の評価、iii) 染色体の長さによる染色体動態の違いの解析のそれぞれについて、ほぼ計画に沿って進捗が見られた。i) 動原体-微小管結合の状態による染色体の可塑性の評価については、モノテリック結合ではシンテリック結合と比べて染色体両腕の作る角度が大きく、これは微小管に対する姉妹染色体の位置関係の違いによることが示唆された。ii) 染色体の長さが可塑性に与える影響の評価では、長い染色体は高い可塑性を持つことがわかった。iii) 染色体の長さによる染色体動態の違いの解析は、これまでの特定の染色体のテロメア近傍を可視化した細胞だけでなく、セントロメア近傍を可視化したRPE-1細胞を樹立したことにより、大きな進展が見られた。この細胞を用いて、染色体分配の過程における紡錘体上での位置を比較したところ、長い染色体は紡錘体の表面に位置する頻度が高いことがわかった。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
特定の染色体のセントロメア近傍を可視化したRPE-1細胞を用いて、以下の研究を行う。 1.分裂期染色体の長さと染色体整列との関連の解明 i) 染色体整列時の紡錘体上での位置に対する染色体の長さの影響 上記の細胞を、核膜崩壊から分裂中期に染色体が整列するまでライブセルイメージングで観察し、可視化された染色体が紡錘体の内部に位置するか表面に位置するかを評価する。核膜崩壊時の染色体の位置が、分裂期初期の紡錘体内での位置を規定すると考えられるため、ラミンA/C, ラミンB1, B2, コンデンシンIIなどの発現を抑制することによって間期の染色体配置を変化させ、その後の染色体整列時の紡錘体内での位置を検討する。 ii) 紡錘体上の染色体の位置を制御する機構の解明 上記の細胞で、染色体腕部にはたらくモーター分子であるクロモキネシンと呼ばれるKid, Kif4Aや、動原体に結合した微小管にはたらくモーター分子であるKif18Aを抑制した際の、可視化された染色体の紡錘体内での動態の変化を観察する。紡錘体内での染色体動態に影響を与えることが判明した分子について、様々な変異体を発現させ、染色体動態制御に影響を与える領域を同定する。またTSA処理によってヒストン脱アセチル化を阻害し、微小管の染色体腕部への作用を減弱させた場合の染色体動態への影響を調べる。これらにより、紡錘体上の染色体の位置を制御する機構を明らかにする。 2. 分裂期染色体の長さと染色体分配との関連の解明 特定の染色体のセントロメア近傍を可視化したRPE-1細胞を、染色体分配に影響を与える種々の薬剤で処理した際の、それぞれの染色体の不均等分配の頻度を検討する。1.ii)で検討した紡錘体上の染色体の位置を制御する機構を阻害した場合の、染色体分配異常への影響を調べ、紡錘体内での染色体動態と染色体分配の正確性との関連を明らかにする。
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