研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
23H04311
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松野 健治 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (60318227)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2024年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
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キーワード | 形態形成 / クチクラ / 物理的拘束 / 左右非対称 / I型ミオシン / 胚の直線性 / 前後軸 / 左右非対称性 |
研究開始時の研究の概要 |
多くの動物のからだは、前後軸に沿って真っすぐである。このような高度の直線状構造が形成、維持される機構についてはよく理解されていない。研究代表者は、これまでの研究から、非細胞素材であるクチクラによる表皮組織形態の「拘束」によって、からだのねじれが抑制され、前後軸が真っすぐに形成されることを示唆する結果を得ている。そこで。本研究の目的は、mobi遺伝子突然変異胚のねじれ、及び、細胞キラリティによって人為的に誘発した幼虫のねじれとクチクラの関連を、2つの実験系の利点を生かして解析することで、クチクラによる物理的拘束によってからだが直線状に形成されるとする仮説を検証することである。
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研究実績の概要 |
多くの動物のからだは、前後軸に沿って真っすぐである。このような高度の直線状構造が形成、維持される機構についてはよく理解されていない。研究代表者は、ショウジョウバエmobius strip突然変異胚では、前後軸の直線性が損なわれ、「雑巾をしぼったように」ねじれることを示した。これらの胚がクチクラ層の形成異常を示すことから、クチクラが胚の直線性を保っている可能性を唆した。さらに、遺伝学的な操作で幼虫にねじれを誘発する別の実験系においても、クチクラが表皮組織のねじれを物理的に制約していることを示唆した。 そこで、本研究の目的は、胚と幼虫のねじれとクチクラの関連を各実験系の利点を生かして解析し、クチクラによる物理的「拘束」によってからだが直線状に形成されるとする仮説を検証することである。令和5年度の研究では、次の成果を得た。 ショウジョウバエの幼虫は、野生型では、前後軸方向にそって真っすぐである。しかし、幼虫表皮でMyoICやMyoIDを強制発現させると、それぞれ、右ネジ、左ネジ方向にねじれる。このとき、胴回り方向に長い表皮細胞は、それぞれ、右上、左上方向に傾くという細胞キラリティを示すことがわかった。細胞がキラルに傾くことで、クチクラを左右非対称に変形させていることを示唆した。この変形の力は、クチクラの拘束力と拮抗していると予測している。 MyoICやMyoIDが細胞をキラルに変形させる機械的力を生み出していると予測した。この機械的力が細胞質を動かしていれば、直径30nmの蛍光ナノ粒子であるGenetically Encoded Multimeric nanoparticles(GEMs)を利用して、この力を計測することができる。令和5年度の研究で、ショウジョウバエ幼虫の表皮細胞においてGEMs遺伝子を発現させ、ライブイメージングで蛍光ナノ粒子の動きを観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) mobi 突然変異の責任遺伝子の同定 mobi 突然変異の責任遺伝子(mobi 遺伝子)を同定することは、水疱状クチクラの構造異常の原因を解明するために必要である。mobi 遺伝子の母性効果を欠いた雌と、第二染色体左腕の欠失突然変異を有する雄を交配し、得られた次世代の胚が水疱状クチクラ表現型を示すかどうかを指標にして、mobi 遺伝子座の染色体上の位置の絞り込みを試みた。令和5年において、既存の染色体欠失突然変異系統のスクリーニングを行ってきたが、結果的に、水疱状クチクラ表現型を誘発する染色体欠失突然変異系統を見出すことはできなかった。この方法では、研究期間内に、mobi 遺伝子座が含まれる領域を欠失した染色体欠失突然変異を同定することは困難であると判断した。 (2) 人為的に誘発した個体のねじれをクチクラが拘束する機構 一方、人為的に幼虫のねじれを誘発する実験は順調に進んでいる。野生型ショウジョウバエ幼虫は、前後軸にそって真っすぐである。令和5年において、teashirt-Gal4を用いて表皮でUAS-MyoIDやUAS-MyoICを強制発現させ、幼虫のからだを、それぞれ左ネジ、右ネジ方向にねじる実験系を立ち上げた。この時、表皮細胞が左右に歪むことで、クチクラの機械的拘束を乗り越えて、幼虫のねじれが誘発されると考えられた。これらの細胞のF-アクチンをLifeAct-GFPで可視化し、ライブイメージングを実施できるようにした。その結果、MyoICやMyoIDの強制発現によってF-アクチンが長いファイバー状に変化し、これが、それぞれ、左上、右上方向にキラルに傾くことを明らかにした。令和6年度において、この実験系を用いることで、クチクラによる拘束と、細胞が生み出す機械的力の関係を迅速に解析できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) mobi 突然変異の責任遺伝子の同定 令和5年度の研究において、mobi 突然変異の責任遺伝子(mobi 遺伝子)を同定することが困難であることがわかった。これに対して、(2)で述べる人為的に幼虫のねじれを誘発する実験は順調に進んでいる。そこで、令和6年度の研究では、幼虫ので誘発したからだのねじれとクチクラの関係に集中して実験を実施することとする。 (2) 人為的に誘発した個体のねじれをクチクラが拘束する機構 野生型ショウジョウバエ幼虫は、前後軸にそって真っすぐであるが、teashirt-Gal4を用いて表皮でUAS-MyoIDを強制発現させると、表皮細胞が左右に歪むことで、幼虫が左ネジ方向にねじれる。幼虫期のクチクラの厚さ、剛性は遺伝学的方法で人為的に変化させることができる。キチン合成酵素をRNA干渉(RNAi)によってノックダウンできる組換え遺伝子UAS-kkv-dsRNAを、幼虫の表皮において局所的に発現させると、そこだけクチクラのキチン層が薄くなる。ShineGal4システムを用いた光遺伝学によって、幼虫の前後軸に対して横や縦のスリットのパターンでUAS-kkv-dsRNAを発現させて、クチクラの強度を低下させる。具体的には、ShineGal4を組み込んだ系統で UAS-MyoID を強制発現させた2及び3齢幼虫を麻酔し、金属微細加工でスリット状の穴をあけた覆いの上から、スリットの向きを前後軸方向や胴囲方向に合わせながら、青色光を照射する。 2光子レーザー顕微鏡を用いたレーザー照射よってクチクラ層の一部をせん断することが可能である。もし、クチクラが幼虫のねじれを抑制していれば、表皮組織のねじれが亢進すると予測できる。クチクラ層をレーザー照射で切断する前後の組織変形を、ライブイメージングで解析する。
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