研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
23H04368
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
眞部 寛之 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (80511386)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 嗅皮質 / 電気生理 / 光遺伝学 / 化学遺伝学 / 質感 / 電気生理学 |
研究開始時の研究の概要 |
外側嗅索核(NLOT)は匂い情報に様々な価値情報を付加し、価値回路への情報分配を調整することで、匂いの質感を生み出す多次元的価値情報を表象するのではないかと考えられている。本研究は、行動解析、電気生理学的手法、光遺伝学的手法、化学遺伝学的手法を有機的に組み合わせ、この仮説を検証する。また、マウスが質感経験をする際の身体指標から質感を客観化する指標を構築し、ヒトの質感研究につなげる基盤研究を展開する。本研究を通じて、感覚情報に価値情報を多次元的に付加する神経回路機構の基本的法則を明らかにし、深奥質感を生み出す神経回路の解明を目指す当該研究領域の発展に貢献したい。
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研究実績の概要 |
脳は匂い情報と様々な価値情報を結び付け外界の匂いモデルを脳内に構築する。しかし、その神経回路機構は不明である。これまでに、嗅皮質の一領域である外側嗅索核(NLOT)が、匂い情報を分類し、それに報酬情報を連合することを発見した。この結果から、NLOTは匂い情報に様々な価値情報を付加し、価値回路への情報分配を調整することで匂いの質感を生み出す多次元的価値情報を表象するのではないかと仮定した。本研究は、その仮説を電気生理学的手法や化学遺伝学的手法などを用いて検証する。また、マウスが質感経験をする際の身体指標から質感を客観化する指標も構築し、これらを組み合わせることで深奥質感を生み出す神経回路機構を明らかにすることを目的として研究を進めてきた。 本年度は異動のため、実験環境の再構築が必要となった。本研究で行う頭部固定下の条件付け課題のための機器をセットアップし、これまでと同様の課題を遂行することができるようになった。また、NLOTからの神経活動記録用のセットアップを整え、これまでと同様の質で課題遂行中のマウスから神経活動記録を行うことができるようになった。さらに、様々な身体指標計測のために、課題遂行中のマウスから呼吸リズムを測定する方法を構築した。また、瞬きや瞳孔の動きを測定するためのシステムを構築した。 質感の神経回路機構を明らかにするためには、様々な検証系が必要である。上記学習系だけでなく新たな検証系を構築した。我々は質感の一つとしておいしさに着目し、その大きな要素である風味をマウスも知覚できること、またヒトと同様、風味は嗅覚が主な働きをすることが分かった。今後はこれらを用いて、NLOTの機能と匂いの質感の関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は異動のため、実験系の再構築が必要となった。そのため、本年度はそれらに注力することになり当初の計画より遅れた。まず、NLOTの機能を検証するためにこれまで行っていた頭部固定下の学習行動系を再構築した。さらに、これらの学習中のNLOTから神経活動を記録するための電気生理装置の再構築を行った。そしてマウスを用い、匂いと報酬や罰を結びつける学習行動が成立すること、NLOTからこれまでと同様の神経活動を記録した。また、マウスが質感経験をする際の身体指標から質感を客観化するため、様々な身体指標の記録系を構築した。まず、呼吸リズムを測定するためにサーミスタを用いた呼吸測定法を新たに確立し、学習行動中の呼吸リズムが計測できるようになった。さらに、呼吸記録とその他の記録系を同期するシステムを構築した。次に瞬きや瞳孔径を測定するため、赤外線カメラをマウスの眼前に設置し、これと他の記録系を同期するシステムを構築した。 当初はNLOT-Creマウスを用いてNLOTの神経活動を操作する計画であったが、異動に伴い新たにマウスを搬入するところから始める必要があった。現在、NLOT-Creマウスを実験施設に搬入し、実験に必要な匹数を確保するために繁殖しているところであり、この点に関しても当初の計画から遅れている。 質感の神経回路を検証する行動実験系を新たに構築するために、おいしさに着目し、その中でも風味の神経回路機構を明らかにする研究を領域内共同研究として行った。これまで、マウスに風味知覚能があるのか不明であったため、風味知覚を検証する行動実験系を新たに構築した。その結果、マウスにも風味知覚能力があること、風味の主役は嗅覚であることを明らかにした。しかしヒトで知られているように、マウスにおいても、味覚も風味知覚に少なからず関わっており、風味は嗅覚や味覚などの多感覚統合によって生じると推察された。
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今後の研究の推進方策 |
NLOT-Creマウスを用い、Cre依存的にオプシンや人工受容体を発現する様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)を活用し、NLOTが匂い情報を様々な価値に変換する機構を明らかにする。DREADDや抑制性オプシンであるアーキロドプシンを用いてNLOTの活動を操作し、行動課題遂行中のマウスがどのような行動変化を起こすかを明らかにする。また、NLOTが扁桃体や側坐核、前頭葉に対して特異的な投射をしていることから、逆行的に感染するAAVを用いて、それぞれの領域に投射するNLOT神経細胞の活動を操作し、それぞれの出力と機能の因果関係を明らかにする。 質感経験の際の身体指標から質感を客観化する指標を構築するために、呼吸計測と眼球の計測に加え、頸部迷走神経にカフ電極を取り付けて自律神経活動を記録する。また、マイクロフォンを用いてマウスの超音波発声も記録する。そして、これらを同時に記録するシステムを構築し、それとNLOTの神経活動も同時に記録することで、それらの関係を明らかにする。さらにNLOT神経細胞の特定の領域への出力が、それぞれの指標とどのように関わるのかを明らかにする。これらの結果をまとめて、匂いの質感の神経回路機構を明らかにし、その回路におけるNLOTの役割を明らかにする。 風味知覚の中枢は眼窩前頭皮質であると考えられている。NLOTは眼窩前頭皮質へも投射することから、風味知覚にもかかわる可能性がある。電気生理学的手法や化学遺伝学的手法を用いて、風味知覚時のNLOTの神経活動計測と神経活動制御を行うことで、NLOTが風味知覚にどのように関わるのかを明らかにする。
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