研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
23H04369
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 名古屋大学 (2024) 立命館大学 (2023) |
研究代表者 |
塩谷 和基 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90907015)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 風味(Flavor) / 神経科学 / 神経機構 / 光遺伝学 / 深奥質感 / オペラント条件付け / げっ歯類 / 質感 / おいしさ |
研究開始時の研究の概要 |
おいしさには、風味(フレーバー)が重要な役割を果たしている。風味は、口から鼻へと抜ける香りと味の統合によって新たな質感として生じる。本研究は、電気生理学的手法と光遺伝学的手法を用いて風味の脳内情報処理機構を明らかにすることを目的とする。具体的には、げっ歯類の風味弁別課題を構築し、その課題遂行時に見られる風味に重要な内側前頭前野(medial prefrontal cortex, mPFC)の神経細胞の応答特性を解明すると共に、光遺伝学を用いて、感覚入力からmPFCへの神経回路が風味知覚に及ぼす影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
風邪をひいて鼻が詰まったときに、食べ物がおいしくないと感じる経験がよくある。一般的においしさというものは、味覚だけで決まるものだと思われている。しかし、ヒトが食べ物をおいしいと感じるためには、味だけでなく、食物の香りや舌に触れた食感などを含めた統合的な質感が必要である。その中でも、食べ物の香りと味によって作られる風味(フレーバー)という質感がおいしさを感じるためには重要である。特に、風味の主役は、口の中から鼻へと抜ける香りである。そのため、鼻が詰まっている状態では、風味を感じることができず、おいしさを感じることができない。おいしさを生み出す脳内情報処理は、風味という質感情報から事物の多面的な生態学的な意味や価値を計算する過程を表し、深奥質感処理として考えられる。これまでの風味研究は、ヒトを対象として行われてきた。ヒトの磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いた研究では、摂食行動に大きく関与し、認知や価値表出に関わる脳の内側前頭前野(medial prefrontal cortex, mPFC)が風味知覚の際に重要な領域であることが明らかとなっている(Shepherd GM,2011)。しかしヒトを対象とする実験は非侵襲であることが必須であり、脳の神経細胞の活動を時間・空間分解能が高い方法で直接計測することができず、また、神経回路に直接介入することもできないという問題があり、神経回路機構を明らかにすることが困難であった。風味知覚におけるヒトでの研究の問題点を打破するために、私はげっ歯類を用いて風味研究を行う。げっ歯類を用いることで、ヒトでは出来なかった個々の神経細胞の活動を時間・空間解能が高い方法で直接計測や、脳の特定部位に対する興奮や抑制などの直接的介入することが可能となる。本研究の目的は、げっ歯類を用いて風味知覚時の脳内処理機構を神経細胞レベルで明らかにすることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの風味研究は、ヒトを対象として行われてきた。しかしヒトの研究では、風味知覚を担う脳神経回路を調べる上でfMRI技術の時・空間解像度が低いために、特に単一細胞レベルの神経活動は捉えられない。さらに、遺伝学的技術を用いて侵襲的に脳神経回路を操作することができないことから、神経回路の活動と動物の行動出力との因果関係を明らかにすることが困難であった。このような背景の中、私はヒトでは困難な脳神経活動の直接計測を可能とする哺乳類のモデル動物であるげっ歯類を用いて、げっ歯類が風味を弁別することができるかどうかを調べるために、独自の風味弁別行動課題を開発した。多角的な観点から、げっ歯類であるマウスが本当に風味を弁別しているのかについて調べた結果、マウスが風味弁別行動課題で風味を基に弁別したことを明らかにし、こうした研究成果をまとめ、論文として出版した。 この風味弁別課題を用いて、風味知覚時の脳内情報処理機構を明らかにするために、風味弁別課題時のmPFCの神経細胞活動の記録を行っている段階である。電気生理学的手法を用いることによって、風味弁別課題中にmPFC内の個々の神経細胞からミリ秒スケールで活動を記録することができる。こうした神経活動の記録後、数理モデルや機械学習を用い、個々の神経細胞と細胞集団それぞれで風味に対する応答特性を明らかにする。今後としては、こうした神経活動の応答特性を明らかにするために、個体数を追加して実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
風味知覚時の脳内情報処理機構を明らかにするために、1)風味弁別課題時のmPFCの神経細胞活動の記録を行い、2)光遺伝学を用いた風味弁別課題時のmPFC神経回路の抑制による影響の検証を行う。前年度から引き続き、1)電気生理学的手法を用いて、風味弁別課題中にmPFC内の個々の神経活動の記録の記録を行う。記録後、数理モデルや機械学習を用い、個々の神経細胞と細胞集団それぞれで風味に対する応答特性を明らかにする。具体的には、一般化線形モデルを使用して、個々の応答特性が運動や意思決定などの要因を排除した純粋な風味刺激であることを示し、さらに機械学習を用いて、mPFC領域内の細胞集団としての風味に対する情報表現を明らかにする。 2)mPFCの神経細胞の活動が風味知覚時に重要であることをさらに検証するために、光遺伝学的手法を用いてmPFC内の神経細胞の活動を抑制し、風味弁別課題中の行動変化を評価する予定である。mPFCに遺伝子組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与しArchTを発現させ、また光ファイバーを挿入する。風味刺激の提示区間にmPFCを人工的に抑制(光抑制)し、mPFCの神経細胞が示す風味応答が風味知覚に必須の役割を持つことを明らかにする。光抑制では機械制御を行うことで抑制するタイミングを任意に振ることができるために、光抑制するタイミングを振ることによって視床からの入力が入る重要なタイミングを調べる。さらに、光抑制によって引き起こされるマウスの行動変化について人工知能を用いた行動動画解析手法であるDeepLabCutを用いて、定量的な評価を行う。
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