研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
23H04370
|
研究種目 |
学術変革領域研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
|
研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
安田 正治 関西医科大学, 医学部, 講師 (90744110)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
|
キーワード | サル / 迷走神経 / 情動 / 結合腕傍核 / 内受容感覚 / 腕傍核 |
研究開始時の研究の概要 |
感情はその要因となる外部環境の認知の影響をうけ、また意思決定などの認知的行動は感情の影響を受ける。近年、これらの認知や感情に身体からの感覚入力を伴う自律神経反応が影響を与えることが報告されてきている。認知・情動・身体、この三つの要素がどのような神経機構によりどう相互作用するのかを明らかにするため、本研究では認知的関与、情動的関与の異なる情動関連課題、そして種々の情動条件下で行う意思決定課題をサルに学習させる。さらに内臓感覚の脳への主要な伝達経路の一つである迷走神経刺激を順行的に電気刺激し、脳内の内臓感覚伝達経路における情動表現、さらには情動と意思決定に関わる神経活動を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
感情は、その要因となる外部環境の認知と、身体内部からの感覚入力(内受容感覚)の影響を受ける。本研究では、これら「認知」と「身体」の信号がサル脳内でどのように統合処理され情動の神経表現が行われるのかを、認知的関与と情動的関与の異なる複数の課題を行うマカクサルを用い、電気生理学的手法によって明らかにする。 当該年度では、一頭のサルについて脳幹マッピングを行い、内受容感覚の中継細胞である結合腕傍核の位置を電気生理学的に同定した。結合腕傍核における情動依存的、意思決定予測的な活動変化を解析するため、嫌悪刺激、または報酬を予測する条件刺激を学習する古典的条件付けをサルに訓練した。古典的条件付けでは、情動条件がランダムに変化しながら課題が進行するランダム条件と、同一の情動条件が一定期間継続するブロック条件の2条件を訓練した。課題遂行中はサルの自律神経応答(心拍、瞳孔径、顔温度)を計測し、情動依存的な応答を計測することに成功した。また情動と認知との相互作用を解析するため、学習した条件刺激の提示下で意思決定を行う逆転選択課題の訓練も行った。 本研究では、内受容感覚の入力を受け取る細部を同定するため、内臓感覚の脳内への入力経路である迷走神経の順行性電気刺激を試みる。そのため2022年度に迷走神経を刺激するための電極をサル左頸部に設置する手術を行った。当該年度では、結合腕傍核での単一細胞外記録を行うと同時に迷走神経を電気刺激し、刺激に伴って活動を変化させる細胞、つまり内受容感覚入力の影響を受けると考えられる神経細胞、の同定に成功した。これらの幾つかの神経細胞について古典的条件づけ下での反応を調べると、情動依存的な神経活動が観察された。これらの結果は、内受容感覚が情動の情報処理に関与することを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結合腕傍核の神経活動記録については、認知課題遂行中での神経活動記録が遅れている。課題学習速度の個体差のため、当該年度で使用したサルの訓練に予定していた以上の時間を要したため。また、認知課題遂行中に提示する条件刺激よる行動への影響が大きいことも訓練に時間を要した理由の一つである。認知課題のパラメータを変更し、課題の難易度を下げて対処している。また迷走神経刺激に対して活動を変化させる結合腕傍核ニューロンの同定にも期間を要した。これは、結合腕傍核ニューロンの活動変化を引き起こすのに必要とされる刺激強度が想定よりも高いものであったことから、最適な刺激パラメータの選定に時間を要したためである。本研究で計画している島皮質での神経活動記録であるが、これも上記の理由により、まだ行えていない。 また本研究では、情動の外部表出として、表情を解析することを計画している。しかし当該年度で使用したサルは表情変化の少ない個体であったため、表情解析を行っていない。情動条件依存的な眼球運動を、代替の行動指標として用いることを検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
より詳細な神経活動記録を結合腕傍核において継続して行い、古典的条件付けに対する情動条件依存的な神経活動を計測する。またランダム条件(一過性の情動:認知的要素)、ブロック条件(継続性の情動:身体入力の要素)の二種の古典的条件付けに対する反応を比較し、結合腕傍核ニューロンが、認知的要素を伴う情動の神経表現を有するかを明らかにする。加えて自律神経応答を計測し、情動依存的な反応の有無、神経活動との相関を検証する。また種々の情動下での意思決定時のニューロン活動も記録し、情動表現を有する結合腕傍核ニューロンが、認知と情動との相互作用にどう関わるかを解析する。そして迷走神経の順行性刺激に応じた活動変化を結合腕傍核で計測することにより、情動表現を行う神経細胞が、身体由来の信号入力によってどのような影響を受けるのかを解析する。これらの手法により、迷走神経からの入力を受ける神経細胞の分布、刺激効果と情動、認知表現との関りを明らかにする。さらに別のサルに対しても、迷走神経刺激電極を装着する手術を行い、上記と同様の実験を行う。また島皮質のマッピング記録も行い、情動表現をもつ神経細胞の探索、順行性の迷走神経刺激による、身体由来の信号を受け取るニューロンの分布を明らかにする実験を開始する。
|