研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
23H04414
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
笠井 倫志 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (20447949)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | プロテオリポソーム / 膜小胞ブレブ / GPCR / 脂質ラフト / 相分離 / GPCR(Gタンパク質共役型受容体) |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質などの分子をデバイスとし、システムとして組み上げるには、リポソームの膜や内部に機能分子を組み込む必要がある。一方、これまで膜タンパク質の向きや濃度を制御し、任意の細胞質性タンパク質と同時に組み込むことは難しかった。また、膜をまたぐ情報伝達の制御原理も十分確立していなかった。 本研究は、細胞膜由来の膜小胞Blebを用い、これらの困難を解決する新たな機能性リポソームの開発を目指す。膜の表裏の脂質分子を介した分子操作原理を開発し、極性や膜変形をパラダイムとしたアクチュエータの構築にも挑む。タンパク質の自在組み込みによる機能性リポソームを実現し、分子サイバネティクスに必要な基盤技術を創出する。
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研究実績の概要 |
2種類の膜分子を同時に組み込んだ、細胞形質膜由来の膜小胞Blebを作製することに成功した。具体的には、Gタンパク質共役型受容体などの複数回膜貫通型タンパク質と、細胞外膜脂質ラフトのマーカーであるGFP-GPIタンパク質を、同じ膜小胞Bleb中に組み込むことに成功した。同時に組み込むことができた膜小胞Blebの直径は数ミクロン前後であり、1種類のタンパク質を組み込んだ場合と比べて大きな違いはなく、膜小胞Blebの産生効率や、産生後の安定性にも大きな差はなかった。一方で、このような膜小胞Blebの一部では、割合は低いものの、相分離が生じることも発見したので、相分離現象によって膜タンパク質やその機能を局在化することができる可能性が示唆された。相分離は、観察を試みた2つの複数回膜貫通型タンパク質のどちらでも観察できたほか、相分離状態は、少なくとも十分以上は室温でも安定に保たれているらしいことも分かった。 また、膜小胞Blebの膜変形を誘導する分子の検証も行った。まず、2つの異なるBARタンパク質に由来するBARドメインタンパク質のみを蛍光タンパク質でラベルし、細胞内に発現させると、生じる凸状突起の形態や数に多少の違いはあるが、どちらも、生細胞膜から非常に多数の凸状突起が生じることが分かった。また、BARドメインタンパク質自体が、これらの突起状構造に存在しているとことも蛍光顕微鏡で確認することができた。すなわち、BARドメインタンパク質を用いて、膜小胞Blebの膜変形の誘導が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gタンパク質共役型受容体(7回膜貫通型タンパク質)のほか、膜貫通回数が4回や12回などの複数回膜貫通型タンパク質を組み込んだ膜小胞Blebを作製することに成功した。タンパク質の種類によっては、目的タンパク質を効率よく含む膜小胞Blebを作製するために、安定発現株を作製する必要があることも分かったので、適宜、安定発現株を作製してこれらの膜小胞Blebの精製を行った。 さらに、7回膜貫通型タンパク質と4回膜貫通型タンパク質については、外層膜脂質ラフトマーカーであるGFP-GPIと同時に膜小胞Bleb中に組み込むことにも成功した。どちらかを単独で膜小胞Blebに組み込む場合と比較して、得られる膜小胞Blebのサイズに大きな変化はなかったが、一部の膜小胞Bleb膜中では、相分離が起きており、室温でも氷温でも、少なくとも10分以上は安定に維持されていることを蛍光顕微鏡観察下ではじめてとらえることができた。一方で、相分離がみられない膜小胞Blebもあるため、相分離を制御する機構を解明する必要があるが、相分離を用いて膜タンパク質や機能を局在化できる可能性が示された。 また、2つのBARタンパク質に由来するBARドメインのみをそれぞれ蛍光タンパク質でラベルし、細胞内に発現させると、いずれのタンパク質の場合でも、ほぼすべての細胞で、形質膜で多数の凸状の突起を形成し、BARドメインタンパク質がこれらの突起状構造に存在することを蛍光顕微鏡によって確認することもできた。突起状構造の形状や数は、BARドメインタンパク質の種類で多少の差異が見られた。BARドメインタンパク質を膜変形のプローブとして用いることができることを検証できた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、相分離する膜小胞Blebの割合が低いため、温度や、膜中のコレステロール量を制御することで、膜小胞Blebでの相分離を制御できるか検証する。膜小胞Bleb中に含まれる分子を数えることで、膜小胞Bleb中に含まれる分子数と相分離との関連を検証する。そのため、複数種類の分子を含む膜小胞Blebを作製する場合には、細胞での分子の発現量を変えて膜小胞Blebを作製し、含まれる分子の割合や数を調整できるか、まず検証する。 内層膜脂質ラフトマーカーを作製し、内層と外層の相互作用の制御機構を一分子レベルで解明する。また、外層分子の会合体形成を制御することで、内層分子の会合体形成を誘導できるかについての検証も引き続き行う。 膜小胞Blebを全反射照明で効率よく観察するための観察条件の検討も進める。 膜変形分子として、BARタンパク質を用い、膜小胞Blebの変形誘導を起こせるかも引き続き検証する。そのため、外部刺激依存的に形質膜にリクルートする分子とBARドメインを融合させた新規のプローブの作製を行い、膜小胞Blebの変形誘導を制御することを目指す。
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