研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
23H04427
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
平 順一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (20549612)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | DNAナノテクノロジー / ペプチド工学 / 分子システム / リポソーム / 合成ペプチド / DNAタイル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、細胞外マトリックスへの細胞接着をモデルとして、リポソームの組織化技術の開発を計画した。DNAナノテクノロジーをベースに構築される細胞外マトリックス様素子(ECM素子)に対する、リポソームの接着による組織化と、その制御技術の構築を目指す。ECM素子には、転写因子由来の特定のペプチドと高い親和性を持つ配列を組み込んだDNAオリガミやDNAタイルを利用する。ECM素子への接着を介したリポソームの組織化の達成後、この組織化の可逆的コントロールやECM素子への接着シグナルをリポソーム内部へ伝える手法について検討内容を拡大する。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、細胞外マトリックスへの細胞接着をモデルとした分子やナノスケールの構造体の組織化技術の開発である。具体的にはポリヌクレオチドの自発的集合により、転写因子結合配列(AP-1)を持つ細胞外マトリックス様素子(ECM 素子)を構築する。このAP-1配列に対する転写因子由来の合成ペプチド(GCN4-bZIP)の特異的結合を介して、各種の分子、リポソームなどのナノサイズの構造体、細胞などを組織化する技術の構築を目指している。本研究の独創的な部分は、組織化に「成長」という要素を取り込んだ点であり、ECM素子の自発的な成長に伴うシステムの成長は、生命の多細胞化による高機能化のモデルを提供するものと期待される。また、DNAで構築された足場に核酸以外の生体分子を用いて微小構造の組織化を行う技術は、DNAナノテクノロジーの機能拡張に寄与すると考え研究を展開している。 これまでに、理想的な特性を持つECM素子として、10マイクロメートル以上の長さを持つDNAナノチューブの構築に成功している。今年度、このDNAナノチューブの成長が構成分子の濃度や温度で変化するかを検討する。また、GCN4-bZIPペプチドは単量体ではAP-1に対し十分なアフィニティーを示さなかったため、2量化を施すなどしてこの点を改善し、最終的にGCN4-bZIPで修飾したリポソームをDNAナノチューブ上にて組織化し、「自発的に伸長するDNAナノ構造体の足場上に、DNAと異なる生体分子を用いてナノサイズの構造体を組織化する」という本研究課題の主題の実現を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2024年度、ECM素子の構築に関する検討を行った。自発的に伸長する足場にナノ構造体や分子が集積して「成長」するというコンセプトを実現すべく、最初にローリングサークル増幅法により成長するスキャフォールドDNAをベースに、ラダー状DNAオリガミを構築することを試みた(Langmuir 36,10989-10995 (2020))。しかし、ポリヌクレオチド鎖増幅の厳密なコントロールができず、長鎖のDNA鎖が凝集する問題が生じた。そこで設計を変更し、DNAタイルの自発的集合に基づくECM素子の構築を行なった。分子量の小さなDNAタイルをベースとした場合、断片的なDNAの足場構造しか得られなかったが、設計を改良することで、約80ナノメートルの経をもつDNAナノチューブを構築することに成功した。このナノチューブは10マイクロメートル以上の長さを持ち、ECM素子として理想的な構造であることが確認された。予備的な全反射蛍光顕微鏡観察の結果、転写因子GCN4由来のペプチド(GCN4-bZIP)は10 μMの濃度でDNAナノチューブに集積することが示唆された。しかし、ペプチドの特異的結合配列を欠いたネガティブコントロールに対してもペプチドの集積が認められ、ECM素子内の結合配列に対するペプチドの結合をより特異的なものとする必要が生じた。 以上、ECM素子の決定とペプチドの構造最適化に時間を要したため、当初の計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度までに、これまでに、理想的な特性を持つECM素子として、10マイクロメートル以上の長さを持つDNAナノチューブの構築に成功したが、ECM素子中のAP-1配列に対するGCN4-bZIPペプチドの特異的な相互作用が弱いことが示唆された。この点を解決を主題として、本年度は下記①②③の優先順位で検討を行い、「自発的に伸長するDNAナノ構造体の足場上に、DNAと異なる生体分子を用いてナノサイズの構造体を組織化する」という本研究課題の主題の実現を目指す。
①これまでの検討で用いたGCN4-bZIPペプチドは単量体であった。しかし、天然の転写因子GCN-4はDNAに結合する際に2量化して結合することで高いアフィニティーを示すことが知られている。そこで2量化を含めた種々の改良を合成ペプチドに加え、ECM素子とのアフィニティーの改善を図る。 ②DNAナノチューブが自発形成される原理的に、ナノチューブの長さはステープル鎖の濃度に依存すると推測される。ステープル鎖濃度を検討することでECM素子の伸長のコントロールを行う。 ③上記ペプチドを膜表面に配置したリポソームの調製法を確立し、ECM素子上へのリポソームの特異的結合に伴う組織化を実証する。
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