研究領域 | データ記述科学の創出と諸分野への横断的展開 |
研究課題/領域番号 |
23H04473
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
石原 卓 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (10262495)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 複雑流動場 / 極端現象 / 位相的データ解析 / 乱流 / 気象予測 / 風向・風速データ / 降水短時間予測 / 背景流 / エネルギー輸送率 |
研究開始時の研究の概要 |
乱流の大規模直接数値計算で観察された低圧渦に伴う剪断層が台風に伴うスパイラルレインバンドと類似の流れ構造を有することを確認した。この類似性は,「複雑流動場の構造とその変化」を読み解けば、そのような場を背景に起きる極端現象の予兆抽出、状態診断、数時間先予測を行う「データ科学」が可能となることを示唆している。本研究では位相的データ解析の手法を「複雑流動場の構造とその変化」の抽出のために活用して大胆かつ有効な場の情報縮約を行い,縮約後のデータと極端現象の出現性や持続性との関係を機械学習することで,複雑流動現象における極端現象の予測・診断技術の創出を目指し,「データ記述科学」の新分野を開拓する。
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研究実績の概要 |
本研究では,非線形性の強い乱流や現実的な気象において,背景の流れ場の構造とその変化を抽出する目的で配置した有限の観測点で得られる速度ベクトルや風速の時系列データを用いて,ターゲットとする極端流動現象や極端気象の状態を把握し,短時間予測を可能とするような機械学習は可能かを明らかにしたいと考えている。これまでの研究により、研究項目「岡山市の豪雨の成長・衰退過程の予測・診断」においては、岡山市で激しい豪雨のあった事例に対し,岡山市周辺の観測点(倉敷,玉野,虫明,和気,福渡,高梁)の風向きのデータを用いて,風向・風速の位相的データ解析を行い,パーシステント図(PD)上の点の動きとして翻訳された流体の歪み情報と岡山市の豪雨の成長・衰退との間に相関があることを明らかにした。また、風向・風速データの位相的データ解析の結果を用いた機械学習の予備的実験では本研究で考えたデータ活用と情報縮約の方法の有効性を確認することができた。研究項目「複雑流動場(高Re乱流)における強い渦構造の成長・衰退過程の予測・診断」では、乱流の大規模直接数値計算によって得られた高Re乱流データを解析し、高Re乱流中の強い剪断層の寿命がエネルギー保有渦の寿命より短いことを確認した。また、MSM解析値を解析することにより、線状降水帯等の激しい豪雨と関連する背景流の特徴づけには、乱流の4/5則に基づくエネルギー輸送率が有効であることを示唆する結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気象庁のホームページから降雨を予想するターゲットや周辺地域の観測地点の気象データを読み込み、そこから必要とする降水量や風向・風速データを抽出し、風向・風速データの位相的データ解析を可能とするプログラムを開発し、風向・風速データの位相的データ解析によって得られるパーシステント図上の点の動きと降雨との間に相関があることを明らかにすることができた。さらに、風向・風速データの位相的データ解析の結果を用いた機械学習の予備的実験では手法の有効性を確認することができた。また、乱流の大規模直接数値計算のデータ解析により、高レイノルズ数乱流中の強い剪断層の寿命は大規模渦の回転時間と比べ短いが、大規模低圧力渦の周りでは別の剪断層が生成・成長・消滅する様子が観察できた。乱流中の強い剪断層の内部では渦度やエネルギー散逸の強いイベントが発生しやすい傾向があることがわかっている。気象庁のメソスケールモデルの数値計算の初期値に用いられるMSM解析値(観測データを同化したデータ)の解析を行った結果、強い剪断層等の流れ構造の生成・成長・消滅と関連する背景流の特徴づけには、乱流の4/5則に基づくエネルギー輸送率が有効であることを示唆する結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
風向・風速の位相的データ解析の結果を活用した機械学習では、手法の有効性を確認する結果を得ることができたが、局地的大雨の発生を予測できるレベルには至っていない。一方で、ターゲットとしている局地的大雨には予兆らしき時系列の変動が確認できている。今後、時系列データのリザバーコンピューティングによる「異常検知」の方法を応用して、局地的大雨の予兆を客観的に「異常」として捉えることができるか明らかにしたいと考えている。 また、気象庁のメソスケールモデルの数値計算の初期値に用いられる、観測データを同化したデータの解析では、上空の850hPa付近の風向・風速データを用いて評価したエネルギー輸送率と強い降雨の間に相関があることを示唆する結果を得ることができた。今後は、同様な他の事例のデータ解析、および、乱流の大規模数値計算の結果の解析を進め、エネルギー輸送率の階層構造と極端現象の関係性を明らかし、気象や乱流における極端現象の予測精度向上のための応用を考えていく予定である。
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