研究領域 | 「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04503
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川崎 猛史 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10760978)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
13,000千円 (直接経費: 10,000千円、間接経費: 3,000千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | ガラス転移 / 分子動力学法 / 機械学習 / ニューラルネット |
研究開始時の研究の概要 |
ガラス転移は,様々な物質系で広く観察される普遍性の高い現象である.しかしその物理起源は明らかではない.特に,ガラス転移に伴う粒子構造の発達の有無は重要な未解決問題である.申請者らは近年,深層学習によるガラスの特徴構造抽出に関する新手法を開発し,複数のガラス形成モデルに対して汎用的に特徴構造を特定できることを示した.本研究では,多様なガラス系に対して本手法を適用することで,(1)ガラス転移を支配する構造の有無の解明,(2)系の詳細によらない普遍的構造抽出手法の開拓,(3)得られた構造に人間が理解可能な解釈を与えることを目標とする.
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研究実績の概要 |
ガラス転移は、様々な物質系で広く観察される普遍性の高い現象である。しかしその物理起源は明らかではない。特に、ガラス転移に伴う粒子構造の発達の有無は重要な未解決問題である。我々は近年、深層学習によるガラスの特徴構造抽出に関する新手法を開発し、複数のガラス形成モデルに対して汎用的に特徴構造を特定できることを示した。本研究では、多様なガラス系に対してこの手法を適用することで、(1)ガラス転移を支配する構造の有無の解明、(2)系の詳細によらない普遍的構造抽出手法の開拓、(3)得られた構造に人間が理解可能な解釈を与えることを目標とする。 本年度は、主にこの課題(1)に取り組んだ。我々自身の最新の成果も含め、比較的単純なガラス系において、ガラス転移を支配する構造が順次見つかり始めている。また我々の機械学習を用いた、極低温状態に限ったモデル金属ガラス系における準備的研究では、想定をはるかに上回る精度での動力学の予測を実現した[N. Oyama, S. Koyama, and T. Kawasaki, Front. Phys. 10, 1007861 (2023)]。しかし、これらの結果が、より高温の過冷却液体や、より複雑かつ多様なガラス系において普遍的に成立するかは自明ではない。 そこで当該スキームを、多様な温度にあるモデル金属ガラス系の過冷却液体における特徴構造の抽出に適用した。その結果、幅広い温度帯において当該機械学習スキームが有効であり、特徴構造とダイナミクスの相関が増大していく様子を捉えることができた。また本スキームから粗視化自由体積が構造指標であることを突き止め、ガラスの「秩序変数」としての性質を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、モデル金属ガラス系における多様な温度の過冷却液体についてのGradCAM(機械学習解析)を用いた構造指標探索は順調に成果が出ており、論文執筆も大詰めである。また、今回の機械学習解析をきっかけとして発見した構造指標:粗視化密度場についての解析を展開しており順調である。一方、当初の予定では当該機械学習手法を、他の物質(ネットワーク型酸化物ガラス系)などに適用することまで持っていきたかったが、機械学習手法の改良を要することになり、本解析には至っていない。具体的には従来手法では畳み込みニューラルネットを用いるところを、新手法ではグラフニューラルネットに変える試みを行っている。これにより、ネットワーク構造を持つ系に対して極めて効率よく計算できるようになるため、本手法の開発に時間をかけている状況である。時間はかかっているが、本質的な困難はなく、次年度は確実に実行できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度における本研究の主要な目標は、(2)系の詳細によらない普遍的構造抽出手法の開拓、(3)得られた構造に対して人間が理解可能な解釈を与えることである。特に(2)の系の詳細に依存しない普遍的構造抽出手法を実現するためには、従来手法よりも一層効率的なスキームの開発が必須課題となる。これまでの研究において適用してきた畳み込みニューラルネットワーク法は、その適用範囲が限定的であったため、本研究では新たにグラフニューラルネットワークへと手法を転換する。具体的には当該ニューラルネットワークとGradCAMを組み合わせた新規手法を開発し、様々なガラス系への適用を試みる予定である。この新規手法の適用により、ネットワークガラスなど隙間が多く開いた無機酸化物系への応用範囲の拡大が期待できる。さらに、上記の解析結果に回帰分析を施すことで、様々なガラス形成物質における秩序変数の具体化を目指す。この秩序変数の抽出は一筋縄ではいかない困難が予想されるため、当該研究期間のみならず、その後も継続して取り組む必要があると考えられる。
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