研究領域 | 「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04511
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
前田 順平 神戸大学, 理学研究科, 講師 (60467024)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 深層学習 / 素粒子実験 / トリガー / データ解析 / 計算環境 / FPGA / アクセラレータ |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子実験では素粒子標準模型を超える新物理の探索を精力的に行ってきたが、新粒子の兆候は得られてない。発見可能性を高めるため、現在計画されている次世代の素粒子実験は高輝度化・大型化を行うことで、可能性を高めようとしてる。現状に比べて桁違いに大量のデータを取得することになるが、今のままではこれまでと同様の処理をするだけの資源を賄えない。本研究はFPGAを搭載した新型電子回路「アクセラレータ」を用いた計算機資源を素粒子実験、特に重要な事象のみを保存するトリガーシステムに導入し,積極的に深層学習を利用する可能性を探求する。
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研究実績の概要 |
現在計画されている、HL-LHCはなどの次世代の素粒子実験は高輝度化・大型化を行うことで素粒子標準模型に残された問題を解決する鍵となる新発見を目指している。現状に比べて桁違いに大量のデータを処理するだけの資源を現状の計算機では賄えない。その点を解決させる計算資源としてFPGAが搭載された「アクセラレータ」のトリガーシステムへの導入のための基礎研究を行った。 本年度は昨今開発が進んでいる高位合成 (High-Level Synthesis)に対する理解が進んだ。KerasやPyTorchといった学習ライブラリの出力モデルをFPGAに搭載される形のファームウェアに変換するツールを数種類実践し、利用手法を確立した。 またアクセラレータ本来の利点の一つであるべき省電力を検証にも成功した。CPU、GPU、FPGAのそれぞれで機械学習の推論の演算速度と消費電力の測定を行った。最新型のCPUは演算速度は速いが、それに伴い消費電力が大きい。FPGAは並列性と消費電力の優位性で、見込み通り桁違いの性能を示した。一方でGPUやFPGAは外部機器であるため、PCI-Expressインターフェースのバンド幅に大きく依存することも定量的に示せた。今後はトリガーシステムとして利用する際の最適な構成について考察していく予定である。 判定回数が1秒に百万回を超える初段トリガーシステムに深層学習を導入するには、詳細な性能検証が必要となる。この検証を行うための機構もFPGAアクセラレータを用いて開発した。大量の入出力ビットをFPGAのパイプライン処理に合うように制御する仕組みの開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画にあげていた「計算機システムとしてアクセラレータを用いた演算処理・運用性の検証」と「アクセラレータによる深層学習を利用したトリガー機構の実現」に対して大きな進展が見られた。オーソドックスな深層学習をFPGAに搭載する方法は確立した。KerasやPyTorchによる学習モデルの変換ツールの使用法をいくつか確立した他、アクセラレータならではの必要な知識に対する理解が大幅に進んだ。今後トリガーシステムを設計するうえでの重要な一歩を踏み出せたと思われる。また、消費電力等も測定にも成功し、FPGAの優位性を示した結果を得た。 これに加え、FPGAを利用した初段トリガーの検証機構もほぼ完成し、これまでの様々なファームウェア検証手法の新たな方法となりうることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は具体的な適用例を設定し、システムのデザイン設計を行う。これに伴い、FPGAアクセラレータにどれほどの規模の深層学習モデルが搭載できるか検討する必要がある。FPGAはデジタル信号を処理することから量子化をすることが基本となり、この量子化によるビット数がFPGA内のリソース量を左右することになる。このためアクセラレータで計算精度・速度がでるかどうかを詳細に検証し、運用方法や内部回路実装の工夫で性能の追求を推し進める。 また、アクセラレータを利用して既存の計算機システムを置き換えるには,台数を増やした場合のスケーラビリティが重要になる。そのため複数台で利用した場合の総合性能を評価・検証する。 これまでソフトウェアトリガーに用いてきた実験サイトの数百台のラックマウントサーバーを、アクセラレータによって減らすことに成功できれば、消費電力面の観点で大きな利点が望める。また、同数の計算資源で高速で複雑な判断の処理が可能となり、トリガー性能の大幅な改良が見込めることも考えられる。 LHC-ATLAS実験を例に必要なアクセラレータの台数や構成を見積もり、FPGAアクセラレータを用いたトリガー運転手法の考案と将来に向けた大型実験用のシステムデザインを行い、技術仕様書を提案する。
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