研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04539
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長 由扶子 東北大学, 農学研究科, 助教 (60323086)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 生合成 / 安定同位体 / 代謝フラックス / in vivo標識 / 細胞内局在 / サキシトキシン / 代謝 / 酵素 / LC-MS / 海洋毒 / アイソフォーム |
研究開始時の研究の概要 |
サキシトキシン(STX)及び類縁体による麻痺性貝中毒は過去33年間の海産物毒による世界中の中毒事例のうち最も多い35%を占め、深刻な問題となっている。気候変動に伴うリスク軽減には真の生産者である渦鞭毛藻におけるSTX生合成と代謝の理解が不可欠である。 本研究では1. 多コピー生物であるSTX生産渦鞭毛藻ゲノムのロングリード次世代シークエンス解析、2. 生合成酵素アイソフォームの発現タイミング及び近接性の変動解析、3. STX生合成関連化合物の代謝フラックス解析によって得られるデータを用いて、渦鞭毛藻をとりまく環境の変動に応じたSTX生合成反応効率の変動を予測することを目的としている。
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研究実績の概要 |
ゲノムが巨大で遺伝子が多コピー存在する麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻の毒性変動予測に必要な基盤情報として、以下の点に注目して解析した。 1.多コピー生物であるサキシトキシン(STX)生産渦鞭毛藻ゲノムの次世代シークエンス解析:Alexandrium属渦鞭毛藻の麻痺性貝毒生産株のシングルセルのマイクロカプセル化の手法を検討し、多置換増幅法によりシングルセルのDNA増幅が可能であることを示した。増幅されたDNAから渦鞭毛藻のSTX生合成遺伝子sxtAの部分配列をPCRで増幅することができた。ただし増幅効率が低いことが課題であることがわかった。 2.株間及び細胞間多様性の解析:イントロンの存在が報告されていたSTX生合成酵素の遺伝子sxtGの全長をAlexandrium属麻痺性貝毒生産株のゲノムからPCRで増幅してロングアンプリコン解析(次世代シークエンス解析)した。20種の遺伝子バリアントの存在を見出し、5'及び3'非翻訳領域、イントロン、翻訳領域すべてに変異があることが明らかとなった。 3.生合成酵素アイソフォームの機能解析:SxtGのデータベースにあったmRNA配列から合成した遺伝子で小麦胚芽セルフリーたんぱく質合成によってSxtGたんぱく質を得た。In vitro変換反応に供し、わずかに活性がみられたが再現性に乏しかった。 4.生合成酵素間距離と活性の相関解析のための経時変化の解析:生合成酵素SxtGが葉緑体に局在することを示唆する結果を得た。代謝フラックス解析と免疫染色のデータの相関解析により、初期生合成酵素2種が細胞周期と連動して特異的に翻訳調節されている可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りの実験を実施することができ、基盤情報が得られた。すなわち従来解析されたことのない麻痺性貝毒の代謝フラックスと生合成酵素の発現及び局在の変動を解析する手法を開発し、たしかに変動があることが、実験的に証明された。また、既報では株内にバリエーションがないとされていた麻痺性貝毒生産株の遺伝子バリアントを見出すことに成功した。ただし機能解析のためのセルフリーたんぱく質合成で得られたSxtGの活性が低く、再現性が得られなかったためおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
1.多コピー生物であるSTX生産渦鞭毛藻ゲノムの次世代シークエンス解析:1-1.渦鞭毛藻シングルセルのマイクロカプセル化と多置換増幅(MDA)法により渦鞭毛藻のDNA増幅されたシングルセルが見出されたが、増幅効率が低かったため、次年度は条件をさらに改良して増幅効率の向上をはかり、微小細胞シングルセルからのMDA増幅産物からライブラリを作成してNGS解析に供する。 2.株間及び細胞間多様性の解析:2-1. 見出したsxtG遺伝子バリアントの多様性が一般的なものなのかを調べるため、他の株のゲノムを複数解析する。2-2.細胞内のコピーごとのバリアントなのか、細胞ごとにバリアントの組成が異なるのかを1.で調製したシングルセルからのMDA増幅DNAのロングアンプリコン解析によって調べる。 3.生合成酵素アイソフォームの機能解析:3-1.ゲノムからロングアンプリコン解析により得られた20種のsxtG遺伝子バリアントがmRNAとして転写されているか調べるため、sxtG遺伝子の転写が活発な時期にRNAを抽出して同様な解析を実施する。3-2.上記より得られた配列から合成タンパク質を得て、in vitro反応により活性の強弱を比較する。 4.生合成酵素の酵素間距離の変動と反応性の相関解析:代謝フラックス解析と免疫染色のデータの相関解析により、初期STX生合成酵素2種が細胞周期と連動してS期に特異的に翻訳調節されている可能性があることがわかった。生合成酵素2種(SxtA及びSxtG)の在の異なる細胞も観察されたが、同調化していなかったため、それがS期の時期による変動なのか、細胞の活性化状態の違いによるのかわからなかった。そこでS期に細胞周期を停止させることがわかっている代謝阻害剤マイトマイシンCを添加してS期に停止しつつある段階から停止するまでの細胞を含む状態で生合成酵素2種(SxtA及びSxtG)の酵素間距離を超解像顕微鏡観察により調べ、代謝フラックスの変動との相関を調べる。
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