研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04545
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 宗仁 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90302801)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 酵素 / タンパク質 / 触媒 / 統計物理学 / 自由エネルギー地形 / 酵素デザイン / タンパク質工学 / 統計力学理論 / 理論的設計 |
研究開始時の研究の概要 |
大量の遺伝子資源を有効活用するためには、「機能未知酵素の基質特異性や反応機構を同定する予知システムの開発」と「酵素の活性向上を効率的に実現する理論的手法の開発」という課題の解決が必要である。しかし酵素反応は複雑な構造変化を伴うため、これらの理論予測は極めてチャレンジングである。我々は最近、これらを実現する上でのブレイクスルーとなる統計物理学理論の開発に成功した。この理論は、様々なタンパク質の自由エネルギー地形(構造ダイナミクス)を予測でき、酵素反応機構の理論的・包括的描画を可能とする。そこで、この物理学ベースの理論を用いて、上記課題の解決を目指す。
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研究実績の概要 |
タンパク質は特定の立体構造を形成した後、ダイナミックに動くことによって機能を発揮する。このようなタンパク質のダイナミクスは、タンパク質の自由エネルギー地形を理論的に描くことによって包括的に理解できる。そこで我々は、タンパク質の自由エネルギー地形を描ける物理学理論(WSME-Lモデル)の構築を行った。この理論は、ジスルフィド結合を持たない球状タンパク質に対しては、大きさによらずに適用可能であり、その予測結果が実験結果とよく整合することが示された。次に、ジスルフィド結合形成を伴う構造形成反応にも適用可能なWSME-L(SS)モデルを開発した。また、ジスルフィド結合が常に存在する状態でのタンパク質の構造変化を記述できるWSME-L(SS intact)モデルも開発した。これらの成果により、大きさやジスルフィド結合の有無に関わらず、あらゆるタンパク質の構造形成反応を予測可能になった。
この理論を拡張することにより、機能既知酵素の反応サイクルの予測を試みた。モデル酵素として、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を用いた。その結果、酵素反応サイクルにおける律速段階の反応経路を予測可能な物理学理論の構築に成功した。さらに、この理論に基づいて、酵素の代謝回転数を理論的に予測する方法を開発し、予測値が実験値とほぼ一致することが示された。
以上の成果は今後、機能未知酵素の機能予測や、酵素の高活性化変異体の効率的設計法の開発において有用と期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
あらゆるタンパク質の自由エネルギー地形を予測可能な理論を開発できたことは画期的な成果である。この成果をまとめた論文は、2023年にNature Communications誌に掲載された生命科学分野の論文の中で最もダウンロード数の多い論文のトップ25にランクインした。さらに、この理論を発展させて、酵素の代謝回転数を予測することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進展しているため、今後も計画通りに進めていく。「機能未知酵素の基質特異性や反応機構を同定する予知システムの開発」については、まず、機能既知酵素の反応サイクルを、我々が開発した理論で予測可能なことを確認する。次に、機能未知酵素と基質候補との複合体構造を深層学習モデル等を用いて予測した後、我々の理論を用いて酵素反応サイクルを予測し、それが実現可能な反応かどうかを検討する。
次に、「酵素の活性向上を効率的に実現する理論的手法の開発」については、様々な酵素変異体の代謝回転数を、我々が開発した理論を用いて予測する。予測結果を文献値と比較することにより、理論予測の妥当性を検証する。以上により、本研究の目標を達成できると期待される。
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