研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04547
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 潤一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任教授 (00431833)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | 麹菌 / 天然物 / 合成生物学 / ゲノム編集 / 糸状菌 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の伝統的醸造で利用される麹菌は、異種天然物生産の宿主として生合成研究に使用されている。本研究では、ゲノム編集による高効率の遺伝子改変技術を発展的に利用し、ゲノム構造の大規模改変をもとにした合成生物学育種によって、異種天然物生産に特化した麹菌を創出することを目的とする。未利用の天然有機化合物の構造や生合成経路を理論的に予知するシステムの構築によって生合成空間の拡張が求められるなか、この要求に応える効率的な生合成実証ツール、将来的に産業的に資する高生産ツールの提供を目指す。
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研究実績の概要 |
日本の伝統的醸造産業のみならず、異種タンパク質などの有用物質生産で利用されている産業的に有用な糸状菌である麹菌は、異種天然物生産の宿主として生合成研究に使用されている。研究代表者らは、麹菌においてゲノム編集CRISPR/Cas9システムを利用し、異種天然物生産のための高効率の多重遺伝子改変技術を開発した。本技術を利用して天然物の高生産を目的とした無限の遺伝子改変を行う育種を可能とし、大規模代謝改変による大量供給に有効であることを示した。 本研究では、ゲノム構造の大規模改変をもとにした合成生物学育種により、異種天然物生産に特化した麹菌を創出することを目的とした。未利用の天然有機化合物の構造や生合成経路を理論的に予知するシステムの構築により、これを実証するための生合成空間の拡張が求められるなか、この要求に応える効率的な生合成実証ツール、将来的に産業的に資する高生産ツールを提供することを目指す。 2023年度は、ゲノム編集を利用した染色体大規模欠損を行い、異種天然物の生産量への影響を調べた。麹菌のゲノム・トランスクリプトーム情報に基づいて、大規模欠損の標的とする染色体領域を選択した。CRISPR/Cas9システムを利用して、0.5 Mbから0.7 Mbの150個から200個超の遺伝子を含む染色体領域について大規模欠損株を取得した。その結果、異種天然物の生産性に影響する染色体領域を見いだし、大規模欠損による染色体領域の機能解明が可能であることを示した。 以上とは別に、麹菌を用いた異種天然物の生産性に関与する制御因子のスクリーニングから、破壊により生産量の増加を示す転写因子遺伝子を発見した。さらに、この転写因子の欠損が代謝遺伝子発現を通して異種天然物の生産性向上に有効であることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度はゲノム編集を利用して麹菌の染色体大規模欠損を行い、異種天然物の生産性に関連する染色体領域を探索した。麹菌のゲノム・トランスクリプトーム情報に基づいて、大規模欠損の標的とする染色体領域を選択した。CRISPR/Cas9システムによる形質転換を行い、0.5 Mbから0.7 Mbの150個から200個を超える遺伝子を含む染色体領域について、大規模欠損株を取得した。異種生産のモデルとしてテルペンpleuromutilinの生産量について、大規模欠損により生産量の増加または減少する染色体領域を見いだすことに成功した。すなわち、100個を超える遺伝子を対象に、ゲノム編集技術を利用することで1回の遺伝子改変で効率的な機能解析が可能であることを示した。2023年度で異種天然物の生産性に関連する染色体領域を見いだしていることから、次年度に予定している全ゲノムでの染色体領域の機能解明と染色体大規模欠損の1つの株への集約により、天然物生産に特化した麹菌の創出の目標の達成が期待される。 以上とは別に2023年度は、麹菌を用いた異種天然物の生産性に関与する制御因子を同定して代謝機能の解析を行った。転写因子遺伝子を対象として行ったスクリーニングから、異種生産のモデルとしてテルペン pleuromutilinについて破壊により2.7倍の生産量の増加を示す遺伝子を見いだした。そして、発見した転写因子が代謝に関連する遺伝子発現を通して異種天然物の生産性に関与する知見を得た。酵母では単一の制御因子の改変による代謝フラックスの改良が報告されているが、糸状菌では同様のアプローチによる研究は進んでいない。発見した代謝制御因子から得られた知見をもとに、本研究で目標とする天然物生産に特化した麹菌の創出について異種天然物の生産性向上から貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
大規模ゲノム改変にもとづいた合成生物学育種による天然物生産に特化した麹菌の創出を目的として、2024年度は異種天然物の生産性に関連する染色体領域の探索およびその知見を集約した麹菌の開発のために以下の実験を行う。 まず、麹菌ゲノムの大規模欠損による異種天然物の生産性に関連する染色体領域の探索を継続して行う。研究代表者らが開発した麹菌におけるゲノム編集CRISPR/Cas9システムによる高効率の遺伝子改変技術を発展的に利用して、効率的な大規模ゲノム欠損を行い、異種天然物の生産量への影響を調べる。大規模欠損については、麹菌のゲノム情報およびトランスクリプトーム解析結果にもとづき、生育や異種天然物生産に必須な代謝遺伝子を含まず、発現量が低い遺伝子を多く含む染色体領域を標的とする。天然物異種生産のモデルとしてテルペンおよびポリケタイドについて、大規模欠損により生産量が増加したもしくは変化がなかった場合、欠損した染色体領域は異種天然物生産に必須でないと結論する。生産量が減少した場合は、欠損した領域の範囲を狭めて異種天然物生産に必須でない染色体領域を絞り込む。 さらに、上記で明らかにする異種天然物生産に関連する染色体領域の知見をもとに、大規模ゲノム改変を集約した合成生物学育種による天然物生産に特化した麹菌を開発する。ここでは、ゲノム編集プラスミドのリサイクリングにより、異種生産に必須でない染色体領域の大規模欠失を繰り返すことで、ゲノム構造の最適化を行う。さらに、これとは別に研究代表者らが見いだした生産性向上を可能にする遺伝子破壊を併せて、さらに高生産になる株を取得する。現在の麹菌の能力から20-50倍の生産量を目標として、高生産で副反応のないクリーンな反応場を供する天然物生産に特化した麹菌を開発し、学術変革領域「予知生合成科学」の生合成研究における大量生産ツールとして提供できるようにする。
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