研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04562
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松原 輝彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10325251)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | ペプチド修飾 / ファージ提示法 / ランダムライブラリー / 生理活性 / 機械学習 / 人工ペプチド / 中分子設計 / 化学修飾 / ペプチドライブラリー / バイオ医薬品 |
研究開始時の研究の概要 |
疾患に関わる標的タンパク質に結合する人工ペプチドを効率よく得る手法として、ファージ提示法によるランダムな分子ライブラリーからの親和性選択が頻用されている。天然由来の生理活性ペプチドは環化や翻訳後修飾されたものが多いが、ファージ提示法で得られたペプチドの結合活性を評価する段階では配列情報のみで評価をしており、化学修飾した状態での活性は未知である。そこで本研究では、親和性選択で得られた全ての候補配列を化学修飾し、機械学習へ向けたペプチド誘導体として生理活性を評価手法を開発する。本研究の成果により、活性未知の配列リソースを有効活用することで、中分子医薬品としての候補化合物が拡大することが期待される。
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研究実績の概要 |
疾患に関わる標的タンパク質に結合する人工ペプチドはリード化合物として有効であり、この分子設計にはファージ提示法によるランダムな分子ライブラリーからの親和性選択が頻用されている。得られたペプチドの結合活性を評価する段階では配列情報のみで評価することが多いが、天然由来の生理活性ペプチドは環化や翻訳後修飾されたものが多い。本研究では、親和性選択で得られた全ての候補配列を化学修飾し、機械学習へ向けたペプチド誘導体として生理活性を評価手法を開発することとした。化学修飾は環化のほか、糖鎖や脂質などの連結を検討し、本課題期間中では、ペプチド誘導体の生理活性を機械学習によって予測することを見越した実験データを収集する。 ペプチドの化学修飾は環化、糖鎖および脂質の連結を検討した。ジスルフィド結合によって連結したCys環化ペプチドは、環化前と比較して10,000倍の阻害活性の向上が見出された。また、SARS-CoV-2のシュードタイプ(偽型)レンチウイルスの作製を行った。ファージ提示法でSARS-CoV-2の感染に関わるSタンパク質を標的として親和性選択を行ない、Sタンパク質結合性ペプチドを得た。このペプチドとステアリン酸を連結したペプチド脂質は感染阻害活性を有することが示された。加えて、インフルエンザウイルスに結合するペプチドに糖鎖を修飾し、脂質膜とウイルスの融合を評価する系を立ち上げた。 これらの成果は機械学習の予備検討の準備が整いつつあることを示し、今後さらに推し進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペプチドの化学修飾は環化、脂質および糖鎖の連結をそれぞれ検討した。15残基ペプチドの環化は2つの方法で行った。ペプチドの2箇所のアミノ酸をCys置換したペプチドを化学合成し、ジスルフィド結合によって連結した(Cys環化ペプチド)。Cys置換した位置によって結合活性の違いがあったが、環化で3倍程度の向上が見出された。さらにアミロイドβタンパク質(Aβ)の線維化阻害活性を調べたところ、環化前と比較して10,000倍の阻害活性の向上が見出された。次にペプチドのN末端とC末端にアジドとアルケンを含むアミノ酸を導入したペプチドを設計した。しかし環化できないペプチド配列があること、また環化できても結合活性が失われることが示された。そこでペプチドのN末端にリンカー配列を導入することで環化が可能であり、結合活性を維持することが明らかになった。 2023年時点ではSARS-CoV-2はBSL3の取り扱いであるため、シュードタイプ(偽型)レンチウイルスの作製を行った。この偽型ウイルスではエンベロープ糖タンパク質としてスパイク(S)タンパク質が発現し、ホタルルシフェラーゼ(Luc)などのレポーター遺伝子が組み込まれている。ファージ提示法でSARS-CoV-2の感染に関わるSタンパク質を標的として親和性選択を行ない、Sタンパク質結合性ペプチドを得た。このペプチドとステアリン酸を連結したペプチド脂質を化学合成し、Luc発光を用いて感染阻害実験を行った。その結果、Sタンパク質結合性ペプチドは感染阻害活性を有することが示された。 インフルエンザウイルスに結合するペプチドに糖鎖を修飾し、脂質膜とウイルスの融合を評価する系を立ち上げることとした。リポソームの脂質組成、蛍光プローブの選定および検出方法を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果により、Cys環化ペプチドは標的糖鎖への結合活性やAβ線維化の阻害効果の向上が見出されたものの、Cys置換はアミノ酸配列に依存し、一般化するには限界がある。そこで元のペプチド配列を維持しながら、環化によって活性向上する例を継続して見出す。クリック反応による環化は継続しつつ、ペプチドの環化の3つ目の手法として、酵素による環化反応を試みる。ペプチドの環化反応を触媒する酵素を遺伝子発現し、精製後、化学合成したペプチドの環化を行う。得られた環化ペプチドの結合活性や阻害効果を評価する。脂質および糖鎖を連結したペプチド設計は、継続して行う。 ファージ提示法を行う場合、ファージ本体が反応容器の壁面に吸着し、親和性選択の効率が下がることがある。そこで音響浮揚法を活用し、親和性選択を浮揚液滴中で行うことを試みる。この手法で、新しいペプチド配列や、学習用データセットが効率よく準備できると期待できる。 数は限られてはいるが、現存する実験データを集め、複数の教師あり学習を試みる。まずはペプチドのアミノ酸配列のみを用いて分子進化を機械学習させる。結合活性のある配列だけでなく、活性のない配列も多く準備する。モデルの評価として交差検証法を用いる。例えばデータを10等分し、1グループはテストデータ、残りの9グループをトレーニングデータとしてパラメータ推定に用いる。ここで活性も高いもの、中程度、低いものなどを揃え、適切な学習を行う。ペプチド配列の学習を試した後は、化学修飾したペプチドの学習を検討する。これらの予備検討により、どのような実験データを集めると学習効率が向上するか判断できると期待できる。
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