研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04572
|
研究種目 |
学術変革領域研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新家 寛正 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40768983)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
|
キーワード | キラル結晶化 / 光メタ空間 / 近接場 / 表面プラズモン共鳴 / Mie共鳴 / 光学キラリティ / シリコンナノ構造体 / 塩素酸ナトリウム |
研究開始時の研究の概要 |
手や螺旋の形ように、鏡に映した構造同士が異なる構造である性質をキラリティという。螺旋性をもつ光である円偏光により分子のキラル秩序化を制御する試みが行われてきたが、螺旋性の強度は十分ではない。近年、近接場において螺旋性が増強することが示された。螺旋性増強には光の電場と磁場の双方が同等に寄与するものの従来は片方に依存しており光の自由度を活用できていないという問題点と、近接場はその空間局在性のためキラル秩序化に関与する分子の一部としか相互作用しないという問題点があった。本研究では、光の自由度の活用の基螺旋性の増強された近接場に全ての分子を閉じ込めキラル秩序化の代表格であるキラル結晶化を制御する。
|
研究実績の概要 |
本研究では、光のキラリティの尺度であり、光の螺旋性ヘリシティと密接な関係にある光学キラリティが円偏光よりも増強された近接場中でキラル結晶化を誘起することで結晶のキラリティを制御することを目的としている。光学キラリティは電場と磁場が同等に寄与するという性質に着目し、金属・誘電体ナノ構造体への光照射により励振する表面プラズモン共鳴・Mie共鳴によりそれぞれ増強する電場・磁場の双方を活用することで強く光学キラリティが増強された光場中でキラル結晶化を誘起し、大きな結晶鏡像異性体過剰率を得ることを目指している。初年度は特にMie共鳴に着目した。多結晶シリコン(Si)のナノディスク周期配列体からなる、波長532nmの光照射により電気および磁気双極子共鳴が同時に励振されるMie共鳴体を光ナノインプリントリソグラフィにより作製した。電磁場解析により、ナノ配列体への円偏光照射により励振するMie共鳴の近接場において円偏光よりも大きな光学キラリティが見られることを確認した。作成した配列体上に塩素酸ナトリウム(NaClO3)飽和水溶液の微小液滴を形成し、波長532 nmの連続波円偏光集光レーザーを照射することでキラル結晶化を誘起すると、左右結晶の晶出確率に統計的に有意な偏りが観測されることが明らかとなった。一方で、配列体の無い領域からの結晶化においては統計的に有意なキラリティの偏りは観測されないことがわかった。以上から、Mie共鳴により励振される光学キラリティの増強された近接場がキラル結晶化におけるキラリティの偏りの誘起に有効であることが示唆された。今後、Mie共鳴による光磁場増強に加え、表面プラズモン共鳴による光電場増強を併せて活用し、更に光学キラリティ増強が得られるメタ空間中でのキラル結晶化実験を実施し、結晶鏡像異性体過剰率の向上を図る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、表面プラズモン共鳴による著しく増強された電場により光学キラリティ増強が期待される金属ナノ構造体を核形成サイトとして誘起されたNaClO3キラル結晶化において大きな結晶鏡像異性体過剰率が得られることが明らかとなっていた。一方で、本研究で、表面プラズモン共鳴と比較して電場増強の弱いMie共鳴体からのNaClO3キラル結晶化においても統計的に有意なキラリティの偏りが得られることが明らかとなった。このことは、観測されるキラリティの偏りがナノ構造体の金属特有の性質によるものという可能性が低くなり、光場の性質によるものである可能性が高くなった点や、電場ではなく磁場による光学キラリティ増強の有効性を示唆する結果である。このような結果は、今後の研究方針にポジティブな指針を与えていると考えるため、進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」に設定した。一方で、結晶化する分子全てを近接場に閉じ込めるメタ空間を作るための方策の進捗が当初計画より遅れているため、「(1)当初の計画以上に進展している」は選択していない。一方で、研究計画外の発見として、圧力を駆動力として水から成長する、キラルな結晶構造を持つ氷IIIと水の界面に、水から分離する未知の水がキラル液晶である可能性を見出した。この未知の水と超螺旋光との相互作用に基づいたキラル光物質科学の展開が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度では、誘電体ナノ構造体のMie共鳴のキラル結晶化制御に対する有効性を示すことができた。本研究の軸となる、電場と磁場の双方の活用による光学キラリティ増強に関して、初年度に電気・磁気双極子共鳴が併せて励振されるMie共鳴体を用いたキラル結晶化実験においてキラリティの偏りが観測されたことから、基本的な概念に現在のところ問題はないように思われる。一方で、Mie共鳴では強い磁場増強が得られるものの、電場増強は表面プラズモン共鳴と比較すると弱いため、今後の研究では、表面プラズモン共鳴による電場増強も併せて活用することで、更なる光学キラリティ増強場を実験的に得る。また、本研究の別の軸となる結晶化に関与する全ての分子を光場に閉じ込めるメタ空間の創出に取り組んでいき、更に大きな結晶鏡像異性体過剰率を得ることを目指す。
|