研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04579
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
音 賢一 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (30263198)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 光渦 / 量子ホール効果 / 2次元電子系 / 光起電力 / エッジ状態 |
研究開始時の研究の概要 |
光渦と物質中の電子との相互作用において、光渦の軌道角運動量(トポロジカル・チャージ)や円偏光の角運動量はどのような効果をもたらすのか、という重要な問題がある。量子ホール電子系は、強磁場による電子間相互作用による様々な空間分布や渦度をもった素励起や電子相のドメイン化などが現れる特異な系であるが、電子のエネルギー、角運動量、スピン状態などのパラメータが明確な電子系である。この量子ホール電子系で光渦由来の現象の抽出とそのメカニズムを調べることで、物質中の電子に対する光渦の相互作用について実験的に調べることが可能となり、光と低次元電子系との新しい相互作用の発見や制御法の開拓も期待される。
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研究実績の概要 |
固体中の電子が光により励起される際には、電子状態の遷移則に従うとともに、吸収された光の偏光状態により励起電子のスピン状態が決まる。らせん状の波面を有する特異な電磁波である「光渦」は、伝播するらせん波面の中心軸に特異点を有し、その周りに円偏光とは別の軌道角運動量成分を持った光である。この光渦の角運動量が物質に吸収された際に、物性にどのような影響を及ぼすかについて様々な研究が進められている。その対象も、希薄イオンや半導体中の励起子などのミクロな対象から、光渦パルス光照射によるナノニードル形成、微粒子の回転現象などのマクロな対象まで盛んに研究されている。その究極的な問いとして、光渦による電子遷移では渦度による(軌道)角運動量と円偏光による角運動量が電子系に対してそれぞれどのように作用するのか、知られている遷移の選択則と角運動量の合成則が単純に適用できるのか、などについては自明でなく理論的・実験的にも未解明の点が多い。 本研究で用いる強磁場下の2次元電子系は、電子系のランダウ量子化により電子の軌道角運動量およびエネルギーが離散的な値をとる。また強磁場ではゼーマン分離により電子スピンのエネルギー差も生じ、光励起による価電子帯から伝導帯への電子遷移の様子は、そのエネルギーとスピン状態を実験的に容易に観測可能であり、素性の明らかな電子系である。また、量子ホール効果が観測される状況では、2次元電子系の端に沿った1次元のキラルな電子状態である「エッジ状態」が存在する。エッジ状態の電子は、加えられた磁場の向きにより試料端に沿って周回方向が決まっているキラリティを持った電子で、後方散乱の無い量子伝導を示す。この量子ホール・エッジ状態の電子に対して、光渦の軌道角運動量成分がどのように相互作用するのかを実験的に調べる。本研究は、光渦による電子系の物性制御にも重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本公募研究では、光渦と量子ホール電子系との相互作用の検出と定量的な評価を目指し、軌道角運動量成分および円偏光成分を制御した光渦を、照射位置の安定度を高く保って半導体2次元電子系試料に照射できる実験系を構築した。また、空間位相変調器によるホログラム法で、光渦のトポロジカルチャージを変化させても光強度や形状が変化しないPerfect vortexと呼ばれる光渦を用いた。これにより、周期的にホログラムを変化させて光渦状態を変調し、これに同期した光起電力変化をロックイン検出する際に、純粋なトポロジカルチャージの変化による効果を精密に抽出できるようになった。加えて円偏光成分も液晶リターダーによる可変波長板をPC制御することで、光渦のトポロジカルチャージと左右円偏光状態を同時に制御し、周期変調された励起光を生成する実験系とした。これまでの予備実験等から、試料への照射位置がごくわずかに変位しても、計測に大きな支障を来すことが分かっていたので、照射位置の時間安定性を高めるための様々な工夫を行った。さらに、GaAs/AlGaAsヘテロ接合2次元電子系の試料形状の最適化を図り、微細加工を駆使して、光渦の照射領域と試料の形状(特にエッジ状態への重なり形状)がマッチングするような形状を模索し、光渦の照射位置の変位による影響を著しく低減できる形状を見出した。その試料を用いた光起電力の変化の詳細な実験から、量子ホール電子系の試料端のエッジ状態に対する光渦照射と、光渦のトポロジカルチャージで決まる渦電流による効果が重要であることが分かってきた。現在、様々な試料形状での光渦の効果や、トポロジカルチャージの大きな光渦による実験をおおむね順調に進めているところである。これらの成果は、R4年9月に行われた日本物理学会やR5年4月に開催されたOMC2024国際会議で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 光渦生成実験系の高度化:R5年度に構築した光渦顕微照射実験系による、光渦の渦度に依存した半導体光励起の効果をさらに高感度に抽出することを目指し、光源レーザーの高安定化と光渦生成光学系の更なる改良を行う。現在使用している空間光変調器より4倍のピクセル数を有する空間光変調器を導入し、高次の光渦や光強度分布が渦度によらないパーフェクト・ボルテクスによる精度(純度)の高い光渦を生成可能なシステムとする。さらに、光弾性変調器による高速変調を行い、これまでより高周波数でのロックイン検出法を活用して、光渦由来の効果の抽出と感度向上を図る。 (2)量子ホール電子系での光渦による光起電力励起スペクトル:量子ホール電子系のランダウ量子化による電子エネルギー準位の離散化を用いて、励起光エネルギー、光渦の渦度や円偏光状態の様々な組み合わせにおける光起電力の変化を系統的に調べ、光渦由来の電子光励起が示す性質から電子系と光渦の相互作用について考察する。 (3) 光渦励起によるエッジ・磁気プラズモンの伝導と制御:光渦の量子ホール・エッジ状態に対する影響について、静的な電気伝導度や光起電力の変化のほか、光渦照射によりエッジ状態に励起された電子がエッジ状態を伝播する様子を時間分解計測で詳しく調べる。キャリア源としてパルス光渦を用いることで、通常の電場誘起のエッジ・磁気プラズモンの伝播との違いを調べ、光渦励起のキャリアの本質を明らかにする。特に、光渦がもつ特異点周りの円周方向の電場と、2次元電子系に加えた強磁場によるキラリティによる効果として、エッジ・磁気プラズモンの加速や減速、すなわち伝播する波束の位相の進みや遅れを制御できる可能性に着目して調べる。
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