研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04599
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 京都大学 (2024) 九州大学 (2023) |
研究代表者 |
前多 裕介 京都大学, 工学研究科, 教授 (30557210)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | アクティブマター / キラリティー / 光渦 |
研究開始時の研究の概要 |
動く細胞や自走粒子は群れや渦などの秩序だった集団運動を示すことが知られている.このような物質群はアクティブマターと呼ばれ,近年になり新たな非平衡系として注目を集めている.その中でも運動の左右対称性が破れたキラルアクティブマターは自然界にもよく見られるが,動きのキラリティーの役割は明らかでない.本研究では遊泳バクテリアのキラル渦運動をモデルとして,集団運動のキラル秩序化を光渦で制御する新技術を開発し、大域的な秩序形成がキラリティーを介して実現するメカニズムを解明する.さらに,不安定な欠陥構造を光渦によって安定的に制御することで,キラリティーを通じた構造形成の新原理を明らかにする.
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研究実績の概要 |
光を用いて遊泳バクテリアのキラル渦運動の非侵襲的操作を行うことを目指し, レーザー光を用いた実験を検討した.光渦をNdYAGレーザーで螺旋位相板を用いて構築し,乱流状態の集団運動を形成するバクテリア懸濁液に集光し,集団運動に与える影響を解析した.光渦レーザーの集光点に遊泳バクテリアがトラップされる回転する様子は観察されたが,その運動が広く拡大して渦形成を誘導する様子は認められなかった.これはバクテリアの集団運動の典型的な相関長に比べて光渦の集光スポットが小さく,トラップされたバクテリアが1ないし2細胞程度であるため集団運動を実現するための配向相互作用には至らなかったためと考えられる.この集光点が限定的である点を改善するためにプローブ粒子として液晶液滴を用い,円偏光ビームによって回転流動場を与える実験を検討した.この条件下では光強度に依存して回転流動が制御でき,バクテリア集団が流動場に追随して渦形成を示す様子を観測することに成功した.今後は,液晶液滴をプローブとしたバクテリア渦回転の光制御系を用いて,回転速度・回転方向を制御したキラル渦ペアの秩序形成を明らかにする.そのために2つの円が重なる双子型のマイクロウェルで相互作用するキラル渦のペアを構築し,集団運動のパターン形成に与えるキラリティーの影響を解析する.さらに,光渦の影響を広げる材料を混合するなどしてアクティブ乱流の光渦による操作を引き続き検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プローブ粒子として液晶液滴を用い流ことで円偏光ビームによる回転流動場が局所的なバクテリア集団運動の渦形成を制御できることを明らかにした.光強度に依存して回転流動が制御できるため,回転流動とバクテリア集団運動による渦運動とが同等となる領域では運動方向の制御がレーザー光により操作しうることを示しており,光によりアクティブ乱流状態を局所的に操作する手法を整えた.これにより, マイクロウェルに封入したバクテリア懸濁液の渦運動について回転速度・回転方向を制御することができるとともに, キラル渦ペアを解析することが可能となった.また一方で,光渦によるアクティブ乱流制御という点は検討すべき点があり,次年度も並行して光操作技術の開発を進めていく予定である.実験に関する進展だけでなく, キラルアクティブマターの集団運動に関して空間拘束が与える影響の理論的解析(Phys Rev Research 2023)でも成果を上げており, 研究は期待通りに進展している.
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今後の研究の推進方策 |
光ビームで回転速度・回転方向を制御したキラル渦ペアの秩序形成を明らかにする.そのために2つの円が重なる双子型のマイクロウェルで相互作用するキラル渦のペアを構築し,集団運動のパターン形成に与えるキラリティーの影響を解析する.相互作用するキラル渦ペアは同じ向きに回転する渦ペアである強磁性的秩序,反対の回転方向になる渦ペアである反強磁性的秩序を取る.キラリティーがない渦では強磁性的秩序から反強磁性的秩序への転移は円の半径と2つの円の中心間距離の比がで定まる. 一方で,キラリティーにより強磁性的秩序が安定化されると転移点がその強度に比例してシフトすることが理論モデルから予測できる.転移点のズレが光渦ビームの強度に依存して変化するかを計測し,強磁性秩序を維持するメカニズムを解明する. 次に,遊泳のキラリティーと液晶の配向秩序を加味した集団運動の理論モデルを構築する.渦ペアのパターン転移ではバクテリアの配向相互作用で隣り合うキラル渦の回転方向が決定されると考えられる.そこで理論モデルは,アクティブマターの連続体方程式,周囲の流体のストークス方程式,液晶配向の弾性エネルギー方程式で構成する.(2)で明らかにしたキラル渦の渦ペア秩序転移の超螺旋光制御と理論モデルの結果を比較し,細胞集団のキラル秩序化を説明する連続体力学モデルを構築する.さらに,渦以外の+1位相欠陥としてモノポールがあげられる.光渦ビームはベクトル性が強く現れるため,重ね合わせにより軸対称偏光ビームへの変換によってモノポール構造を誘起できるかを検証する.
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