研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04601
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
坪井 泰之 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283698)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | ドロップレット / 光マニピュレーション / ミー共鳴 / ミートロニクス / ブラックシリコン / シリコン単結晶 / 光ピンセット / ナノ粒子 / 光渦 / 軌道回転運動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、半導体ナノ構造が生むMie共鳴効果により、光渦の光圧を増強し、キラル物質のエナンチオ選択的光捕捉を目指す。また、下記の高速回転を利用して、マイクロドロップレット内の渦流を引き起こし、ホモキラリティーを誘起する反応場の可能性を探る。 応募者はシリコンにナノ構造を付与して光ピンセットに組み込んだとき、光電場増強は「Mie共鳴」により引き起こされる。この光ピンセットを「光渦ビーム」で駆動させると、二次元捕捉したナノ粒子を高速に(~100 rpm)軌道回転運動させることに成功した。この増強効果を駆使し、キラルナノ粒子のエナンチオ選択捕捉を実現し、その機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
光ピンセットの光源として、ガウシアンビームに代わり光渦を用いることで、新たな自由度である軌道角運動量を獲得できる。本研究では、光渦を用いてシリコン結晶上で蛍光性ポリスチレン微粒子の光捕捉と運動制御を試みた。 捕捉対象試料として、蛍光色素を含有した直径 500 nm のポリスチレン微粒子を水に分散させた。ガラス基板、銀基板、シリコン結晶に試料分散液を接触させて試料とした。捕捉用光源として、近赤外レーザー光(λ=1064 nm)を螺旋位相板に導入することにより光渦(L=1、2、4、6、8)を発生させた。この光渦を用いてポリスチレン微粒子の光捕捉を行い、その捕捉挙動を顕微蛍光観察により追跡した。 シリコン結晶を用いた光ピンセットについて述べる。レーザー光強度 I=0.14 から 4.0 MW/cm2 の強度では、光渦レーザーを照射すると、ポリスチレン微粒子は徐々に光捕捉された。そして、光捕捉されたポリスチレン微粒子は時計回りに軌道周回運動を行った。シリコン結晶上で回転する 1 粒子に働くトルクを実験値より計算すると 5.417×10の24乗 Nm となった。 シリコン結晶を用いた際のポリスチレン微粒子の回転速度のレーザー光強度依存性について述べる。L=1、2、4、6、8 の光渦レーザーとシリコン結晶を用いてレーザー光強度 I=0.14 から 4.0 MW/cm2 まで変化させたとき、レーザー光強度が大きいほどポリスチレン微粒子の回転速度は大きくなる傾向が観られた。L=2 から 6 では、軌道角運動量の増加に伴い、回転速度も増加した。L=6 で最大 1500 rpm 以上の回転速度を達成した。これは、過去の研究例と比較して 約 10 倍程度となっている。このように、超高速回転軌道運動の誘起に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光渦の持つ軌道角運動量を微粒子の運動に転写した光マニピュレーションを実現するのが最大の目的である。その意味で、初年度は十分この目的を達成できている。「実績」で述べた現象はシリコン単結晶上でしか達成されない。例えば、シリコン結晶がない時、ガラス基板上、銀結晶上では特に、高速軌道回転運動どころか、捕捉さえも達成されなかった。私たちは、関連研究と比べて、回転角速度(rpm)で10倍以上の超高速回転をシリコン結晶上で達成している。これは、私たちが独自に開発したシリコン結晶光ピンセットが光渦ピンセットにも拡張できることを如実に示している。よって、順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
<シリコンナノ構造上のキラル粒子のエナンチオ選択的捕捉> シリコンナノ構造は、シリコン単結晶をプラズマドライエッチングで加工するブラックシリコンを用いる。現在、光渦ビームは1064 nm で発生可能であるが、新たに空間光位相変調素子を購入し、効率的にMie共鳴を利用できる 波長808 nm~470 nmで光渦ビームを発生できるようにする。捕捉対象とするナノ粒子は、三重大学工学研究科の八尾浩史教授より、キラル金・銀クラスター並びに蛍光性キラル色素会合体を御提供頂き、使用する。光渦の巻き方向と、D体、L体のそれぞれのキラルな構造で、捕捉効率(捕捉量)を顕微(二色性)ラマン分光法、顕微蛍光分光法で評価する。D体、L体の捕捉効率の差を利用して、ラセミ体からの選択的捕捉にチャレンジする。 <高分子ドロップレット内の渦流誘起とキラル色素会合体形成> ポリアルキルビニルエーテルやポリジエチルアクリルアミドを水中で光保捕捉すると、マイクロドロップレットを形成できる。興味深いことに、そのドロップレット内では、さらにまた水と高分子が相分離している。この二重に相分離したマイクロドロップレットは、応募者らが初めて発見したユニークな構造である(M. Matsumoto et al, & Y. Tsuboi, Langmuir, Vol. 37 (2021), 2874、後述)。つまり、このマイクロドロップレット内は屈折率の明確なコントラストがあるので、Mie共鳴で増強した光圧が働き、渦流が発生する。この、一方向に巻く渦流をホモキラリティーの起源とする。ドロップレットに抽出した色素分子は濃縮されるので、会合体を形成しやすい。さらに、渦流に加えて光渦の作用もあり、エナンチオ選択でキラルな色素 J 会合体が形成されると考える。
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