公募研究
学術変革領域研究(A)
最新の探査車による火星堆積岩の炭素同位体分析結果は、軽い炭素同位体に劇的に濃縮されていることを発見し、生物学的な証拠を示唆する興味深いものであるものの、その解釈は決着がついていない。本研究では、新しい炭素同位体比の地上観測手法と欧米の最新火星探査機観測により、火星の炭素循環を観測的に初めて明らかにし、軽い炭素同位体濃縮の解釈に決着をつける。
火星表層付近の炭素同位体観測が可能なレーザー・ヘテロダイン分光システムの実機構築に着手し、想定光学系におけるコヒーレントなレーザー光およびインコヒーレントな黒体・太陽光による伝送効率の実証確認を実施した。レーザーヘテロダイン分光は従来のミラーを多用した大型・複雑な従来光学系から離れ、同等のシステム雑音温度(ショット雑音限界に迫る約3,000 K)を実現可能な小型レーザー分光系・ヘテロダイン分光系の開発を行うとともに、仙台市天文台の協力を得て自然光である金星の試験観測を実現することができた。一方、火星高層中の炭素同位体観測を欧州火星探査衛星TGO搭載NOMADデータ解析により推進し、初期成果をAoki et al. (2023)として学術雑誌に出版し、その後、より多くの観測データを用いた統計解析を進め、炭素以外の酸素同位体比も組み合わせた解析に着手、その成果の一部は学位論文(博士課程前期・塩原輝美恵)として結実することができた。モデル予測値と整合的な観測結果が得られており、モデル比較をまとめた成果を出版にむけて準備を開始した。地球からの望遠鏡観測の解析にも着手しており、学術雑誌に投稿した。これら一連の成果は、国内外の学術会議にて成果報告がなされている。
2: おおむね順調に進展している
新たな同位体遠隔分析手法に関する成果を査読付き学術雑誌にて出版することができただけでなく、計画されていたモデルとの比較も進んでいる。昨年度課題にあがった温度依存性など得られた結果の妥当性検証も十分に進んだ。ベルギーへの訪問は実現できなかったが、ベルギーチームとはテレコンを介した定期的な議論を続けており、モデル結合・観測検証を推進することができた。火星表層全球の炭素同位体比分析が可能な新たなファイバーレーザー赤外ヘテロダイン分光器の実機開発に着手、実機を用いて仙台市天文台における試験観測にこぎつけることができた。炭素同位体比取得にまでは至らなかったものの、課題を抽出することができた。
NOMADチームの本拠地であるベルギーBIRAに短中期滞し、これまで得られたNOMAD成果をまとめにかかる。合わせて、モデルとの比較をこれまで以上に推進し、東北大の一次元光化学モデルとベルギーの大気大循環モデルとの結合を経て、炭素循環の解明に挑む。地上観測手法の開発においては、現況の実機におけるファイバー透過率をさらに向上させるため、インコヒーレント光の中空ファイバー内における挙動を定量的に再評価する。終わり次第速やかに観測実機の再構築を行い、火星観測を企図する。従来のCO2レーザーだけでなく、波長可変な量子カスケードレーザーを活用し、フレキシブルに同位体分析可能なシステムに改良する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
The Planetary Science Journal
巻: 4 号: 5 ページ: 97-97
10.3847/psj/acd32f
Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 128 号: 12
10.1029/2022ja031250