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物理/化学シグナルの変換を介した細胞競合による組織自律性維持機構の解明

公募研究

研究領域力が制御する生体秩序の創発
研究課題/領域番号 23H04705
研究種目

学術変革領域研究(A)

配分区分補助金
審査区分 学術変革領域研究区分(Ⅲ)
研究機関大阪大学

研究代表者

青木 佳南  大阪大学, 微生物病研究所, 特任助教(常勤) (70904738)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2024年度)
配分額 *注記
11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
キーワード細胞競合 / 細胞間張力 / Wntシグナル / 細胞間接着 / 細胞骨格 / ゼブラフィッシュ / パターン形成
研究開始時の研究の概要

生体組織において場に適合しない異常な細胞が突発的に出現すると、隣接する正常細胞がこれを感知し、異常細胞を組織から取り除く。この現象は細胞競合と呼ばれ、組織の自律性を支える新たなシステムとして近年注目されているが、一方で「隣接細胞が異常細胞をどのように感知するか」は研究が進んでいない。本研究では主にゼブラフィッシュ胚を用い、「化学シグナルの異常」が細胞間の「力作用の変動」を生み出し、これを隣接細胞が感知することで下流化学シグナルの活性化を介して細胞競合を起動する詳細な物理化学的基盤を明らかにする。そして細胞競合を介して組織に自律性を生み出す、普遍的な物理化学シグナル相互変換機構の解明を目指す。

研究実績の概要

ゼブラフィッシュ胚に自然発生したWntシグナル異常細胞では、細胞間接着分子カドヘリンの量的異常が生じ、これを隣接正常細胞が感知することで細胞競合が起動する。しかし、隣接細胞がいかにしてカドヘリンの量的異常を感知し競合を起動するかは不明である。カドヘリンはアクチン細胞骨格とリンクしているため、異常細胞においてアクチン細胞骨格の動態変化が生じると考えられる。その結果引き起こされる物理的相互作用の変化は組織内張力の乱れに繋がり、隣接細胞はこれを感知して細胞競合を起動させると推測した。これを確かめるため、細胞間張力を生み出すアクトミオシン収縮力の活性を定量した結果、アクトミオシンの活性と細胞間張力はWntシグナルと同様の勾配を示し、Wntシグナルと相関して変動することが明らかとなった。加えて、張力を異常に亢進させた細胞を胚に導入した結果、これらの異常細胞は、胚組織の張力が低い胚前方の領域に出現したものほど効率よく細胞競合による細胞死を起こした。また、この細胞競合は胚組織全体の張力を均一に低下させることで抑制された。以上より、異常細胞における細胞接着や細胞骨格の変動が細胞間張力の増減に変換され、隣接正常細胞はこれを感知して細胞競合を起動させていることが分かった。さらに、Wntシグナル異常細胞出現時における隣接正常細胞の挙動を詳しく解析した結果、異常細胞の出現直後に隣接正常細胞において急速なカルシウムイオンの流入が起こることを見出した。このカルシウムイオン流入は隣接する細胞において特定の分泌性タンパク質の発現上昇を引き起こし、この分子が異常細胞の細胞死を誘導していることを新たに見出した。以上より、異常細胞出現時に細胞間の張力が変動し、隣接細胞においてメカノセンスチャネルが活性化することでカルシウムイオンの流入が起こっており、これが異常細胞の感知と排除に寄与していることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、「1. 細胞競合における細胞間張力変化の解析」と、「2. 細胞間張力変動から異常細胞の排除を引きおこす下流シグナルの探索」を中心に研究を行った。
「1. 細胞競合における細胞間張力変化の解析」に関しては、異常細胞出現時において、細胞間張力を生み出すアクトミオシン活性のイメージングと張力変化の定量を行った。その結果、Wntシグナルと同様の活性勾配を示し、Wntシグナルが亢進した異常細胞では活性化レベルが上昇することが明らかとなった。以上の結果から、細胞間張力はWntシグナルと同様に、前方で低く後方で高いという勾配が形成されており、Wntシグナル異常細胞の出現によりE-cadherin量が増減した異常細胞では、裏打ちのアクトミオシン量の変動を介した細胞間張力の変動が生じることを明らかにした。
さらに、「2. 細胞間張力変動から異常細胞の排除を引きおこる下流シグナルの探索」について、Wntシグナル異常細胞出現時における隣接正常細胞の挙動を詳しく解析した結果、異常細胞が出現してすぐに、隣接正常細胞においてメカノセンスチャネル活性化による急速なカルシウムイオンの流入が起こることを見出した。さらにこのカルシウムイオン流入は下流において特定の分泌性タンパク質の発現を上昇させ、この分子が異常細胞の細胞死誘導に寄与しているという新たなシグナル経路を見出した。この結果から、異常細胞出現時に細胞間の張力が変動し、隣接細胞においてメカノセンスチャネルが活性化することでカルシウムイオンの流入が起こっており、これが異常細胞の感知と排除に寄与していることが示唆された。以上の成果から、計画目標としていた、「張力を介した異常細胞感知を制御する分子機構の探索」 について、異常細胞感知においてカルシウムイオンを介したシグナル伝達を介している可能性を示すことができたと考えている。

今後の研究の推進方策

今後は、「張力を介した異常細胞感知を制御する分子機構の探索と機能解析」を中心として研究を進める計画である。本年度の研究により、「異常細胞出現時による細胞間張力変動は隣接細胞のメカノセンスチャネルを活性化させ、流入したカルシウムイオンにより発現上昇した分泌性タンパク質が細胞競合が起動する」ことが明らかになった。今後は具体的に、この分泌性タンパク質がどのようなプロセスを経て「異常細胞に選択的な排除・細胞死を誘導する機構」を活性化するのかを解明したい。例えば、Wntシグナル異常細胞感知には異常細胞のカドヘリンの量的な変化が関わり、その細胞死誘導にはSmadの活性化とそれに続く活性酸素の増大が関わるが、この分泌性タンパク質がいかにして異常細胞のみに選択的に取り込まれ、Smad活性化に至るかは不明である。これを明らかにするため、異常細胞と隣接細胞間において、今回同定した分泌性タンパク質のイメージング解析を行い、隣接細胞と異常細胞間での分子のやり取りを可視化する。これにより、異常細胞出現時の張力変化に応答して活性化し、異常細胞に細胞死を誘導する新規メカニズムを明らかにしたい 。
並行して、「排除機構を起動させる異常細胞の異常度や張力変化の度合い」も定量的に解明する。胚組織ではシグナル強度の軽微な揺らぎが起きており、また張力も常に変化しているため、わずかなシグナル異常や張力変化では排除機構は起動しないようになっていると推測される。これについては、ルシフェラーゼレポーターアッセイによるシグナル活性の定量的解析や、張力に応じて構造変化するFRETプローブを用いた細胞間張力の定量解析により、異常細胞の排除を決定するシグナル異常や、張力変化の度合いを探る計画である。

報告書

(1件)
  • 2023 実績報告書
  • 研究成果

    (4件)

すべて 2024 2023

すべて 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)

  • [学会発表] 細胞間張力を介した細胞競合との連関がモルフォゲン勾配の頑強性を維持する2024

    • 著者名/発表者名
      青木 佳南, 樋口 大樹, 石谷 太
    • 学会等名
      第11回 細胞競合コロキウム
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
  • [学会発表] モルフォゲン勾配の頑強性は細胞間張力を介した細胞競合により維持される2023

    • 著者名/発表者名
      青木佳南, 石谷 太
    • 学会等名
      第75回日本細胞生物学会大会
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
  • [学会発表] カドヘリン/アクトミオシンを介した細胞間張力がモルフォゲン勾配の頑強性を支える2023

    • 著者名/発表者名
      青木 佳南, 樋口 大樹, 石谷 太
    • 学会等名
      第61回 日本生物物理学会年会
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] Intercellular tension-driven cell competition ensures robust Wnt morphogen gradient formation2023

    • 著者名/発表者名
      青木 佳南, 樋口 大樹, 石谷 太
    • 学会等名
      第46回 日本分子生物学会年会
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 招待講演

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公開日: 2023-04-13   更新日: 2024-12-25  

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