研究領域 | 力が制御する生体秩序の創発 |
研究課題/領域番号 |
23H04707
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
作村 諭一 奈良先端科学技術大学院大学, データ駆動型サイエンス創造センター, 教授 (50324968)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 血管新生 / 機械学習 / 定量モデル / 細胞運動 |
研究開始時の研究の概要 |
◆ 血管新生の細胞運動の定量モデル開発: ゼブラフィッシュの血管新生過程の画像から細胞運動を定量化し、定量数理モデルを構築する。Celluar Potts Model の定量バージョンを提案する。◆ 指向性のある血管成長の原理の解明: 定量モデルの細胞を複数設置し、血管新生の過程を再現することで作業仮説の妥当性を検証する。細胞外の誘引因子と血管細胞集団の力学的関係が個別の役割を果たしていることを示す。
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研究実績の概要 |
本研究は、血管新生のメカニズムとその秩序形成を解明することを目的としている。特に、血管内皮増殖因子(VEGF)に誘引されないTip細胞が他の細胞との物理的接触によって移動し始める現象に焦点を当てている。これまでの研究では、細胞の動きを説明するためにCellular Potts Model(CPM)などのモデルが用いられてきたが、実験データとの整合性を取る上で限界があった。そこで、本研究では機械学習を用いた定量的な数理モデルを構築して、力学的要素を含む血管新生の原理を明らかにする。
本研究の意義は、定量モデルによる組織の秩序形成の理解にある。細胞間の相互作用とそれに伴う力学的な要素を取り入れることで、血管新生という複雑な生体プロセスの秩序形成を数理的に解明する。また、血管新生の詳細な機構の解明は、がん治療などの医療分野での新たな治療戦略を導く可能性がある。データ駆動型で導出された動く細胞の物理モデルがほとんど存在しない中で、ライブセルイメージと機械学習を用いて定量モデルを構築し、それを血管新生の解析に応用する点で革新的である。提案された定量数理モデルは、生物学だけでなく、組織工学や再生医療など、他の多くの生命科学分野での研究にも貢献する。
当該年度では、最初に細胞運動のモデリングを行った。 ライブセルイメージングから得られるデータを用いて、細胞運動に関する特徴量のデータ構築を行った。細胞エッジの拡張または退縮のルールを機械学習技術を用いて決定し、力学的要素を含む新たな定量数理モデルを開発した。このモデルは、組織の外部からの情報と内部の情報を細胞エッジの運動に定量的に変換する。しかし、細胞運動の予測精度に改善の余地があるため、機械学習のアルゴリズムを変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、発達中のゼブラフィッシュの新生血管において、レーザー切除により孤立したTip細胞のライブセルイメージングデータ(日本医科大学・福原茂朋教授提供)の解析を行った。Tip細胞の形状を正確に定量化し、細胞が生成している機械的力を近似した。この力による基質の変形、細胞エッジの曲率、エッジからの距離をすべて定量および推定し、機械学習のための特徴量を3000種以上用意した。さらに、細胞エッジ上にマーカーを等間隔で多数設置し、マーカーごとに周辺の特徴量をベクトル化した。次時刻のマーカーの動き(伸張、停止、退縮)のラベル付けを行い、この特徴量ベクトルに基づいて教師あり2値分類学習(ランダムフォレスト)を実施した。交差検証により学習の精度を評価したところ、時間フレームごとに精度が異なり、最高で88%でエッジの動きを予測できた。しかし、精度が低いフレームでは34%にとどまり、改良が必要であることが明らかになった。エッジの動きの予測に貢献した特徴量には細胞の面積や周長などがあり、これらはCPMなどのモデルでも用いられる変数であった。
次に、エッジの動きの精度向上を試みたが、予想に反して大きな改善は見られなかった。そこで、入力データからエッジ移動を学習するアルゴリズムを畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に変更した。以前のアルゴリズムでは画像から様々な特徴量をベクトル化していたが、CNNを使用したアルゴリズムでは、特徴量を画像のチャンネルとして取り入れ、10チャンネルの画像を生成した(通常はRGBの3チャンネル)。この特殊画像と対応するエッジマーカーの運動ラベル(拡張、退縮)とを組み合わせてCNNで学習を行った。その結果、初期のアルゴリズムと同等の予測精度を得ることができたが、最高でも70%台であり、さらにエッジの動きを2値分類ではなく連続値で予測する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
特徴量から細胞エッジの動きを学習する方法を変更した後も、調査が必要な点が多く残されている。学習させる時間フレームの選択、CNNの構造の最適化、他の特徴量の導入などが挙げられる。また、予測精度が悪い原因の解明も必要である。これらの点をクリアすることで、細胞エッジの運動予測精度の向上が期待される。計算機リソースに関しては、必要に応じてGPUと大容量メモリを搭載した計算機の購入を検討する。
孤立した細胞の運動予測がある程度の精度で可能になった後、細胞接触時の細胞運動の変化を調査し、モデルに反映させる。stalk cellがtip cellに接触した際の細胞形状を各タイムフレームごとに定量し、再び機械学習を適用してエッジ移動の変化を調査する。
tip細胞が孤立時とstalk細胞との接触時の運動がモデル化された後、学習済みのモデルを使用して細胞運動のシミュレーションを行う。これにより、血管としての1次元状の細胞組織の形成だけでなく、レーザーによる細胞切除実験の再現可能性も調べる。これらが可能になれば、細胞がどのような信号を基に移動しているかを解析し、血管新生のロバストなメカニズムを明らかにする。
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