研究領域 | 力が制御する生体秩序の創発 |
研究課題/領域番号 |
23H04711
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 (2024) 九州大学 (2023) |
研究代表者 |
前多 裕介 京都大学, 工学研究科, 教授 (30557210)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 非平衡物理学 / アクトミオシン / 人工細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞骨格アクトミオシンの収縮力は細胞内の対称性や構造形成を制御することが知られており,これらのタンパク質が出す力とマクロな細胞の秩序化を結ぶ物理法則の解明は生命秩序力学の進展に不可欠である.本研究は,アクトミオシンの連続体力学モデル(アクティブゲルモデル)を構築し,力制御と情報統制によって実現する細胞骨格秩序化の理論的枠組みを構築する.構築した理論を適用する具体例として細胞接着を介さない非接着型運動に着目し,力生成と情報処理の相互制御の役割を明らかにする.さらに,アクティブゲルモデルを細胞集団ダイナミクスへと拡張することで,生体組織内を動く細胞の力を介した秩序化原理の解明を目指す.
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研究実績の概要 |
細胞内の対称性の制御と細胞運動のいずれにも不可欠なパターンが「アクチン波」である.本年度の主たる課題は,アクチン波形成の理論モデルを連続体力学に基づき構築することであった.具体的には,細胞区画内のアクチン繊維とミオシン分子モーターからなる「アクトミオシン流動場の方程式」,「細胞骨格の連続の式」,「細胞の形を表す方程式」の3つの方程式でアクティブゲルモデルを構成した.フェーズフィールド法により細胞区画を設定し,周期的なアクチン波が再現されるかを数値計算で検証したところ,ミオシンの収縮力とアクチン繊維の重合率をパラメータに変化させ,周期的アクチン波が現れることがわか理,ミオシン収縮力により一様な状態から波動伝搬への転移が起こることが示された.さらに,このモデルを用いて細胞区画の形状を円形から半円など非対称な形状に変化させたところ,アクチン波が曲率依存的な変化を見せる振る舞いが見出された.この理論的な予測を検証するために,微細加工技術を用いてアクトミオシンを封入する境界形状が半円のように非対称な形状になった人工細胞の作成を行い,境界の曲率に応じた非対称な細胞骨格形成が現れることを予備的に見出している.また, 狭い空間を動く細胞は周囲流体の粘性抵抗力と推進力とのバランスで運動速度が定まる.しかし粘性抵抗力は空間の長さスケールの二乗で大きくなるのに対し,推進力は細胞の長さスケールで決まるため異なる幾何的依存性を持つと考えられる.これまでに構築した数値計算モデルが空間拘束に対する幾何的依存性を再現するかを検証するため,理論モデルに外部環境に応じた収縮力の化学力学フィードバックの導入を検討した.新たな理論モデルへ拡張し,外部環境に依存した化学力学フィードバック機構と細胞運動のメカニズムの関係について解析を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた細胞の運動・変形ダイナミクスを制御するアクチン波の数値計算モデルの構築と実験実証が本年度の大きな成果である。具体的には、アクチン波の形成に非対称な境界形状が与える影響をフェーズフィールドモデルを用いて数値計算から予測するとともに、微細加工技術を新たに開発することでその実験的検証に成功した。さらに、アクティブゲルモデルを細胞集団に拡張した場合においても化学シグナル波に応答する集団運動の理論的解析を進めており、現在論文改訂中である。今後はこれらの数値計算モデルと機械学習によるパラメータ推定を組み合わせて、Physics-informed機械学習法を構築し,生体組織内を動く細胞の画像から収縮力や細胞運動能を推定・解析する予定である。研究計画に掲げたアクティブゲルモデルの有効性を示す結果が細胞レベル、細胞集団レベルのいずれにおいても得られており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した数値計算モデルが空間拘束に対する幾何的依存性を再現するかを検証する.さらに, アクチン波の収縮力の高まりは粘性抵抗に逆らって運動するための適応的戦略と考えられ,理論モデルに外部環境に応じた収縮力の化学力学フィードバック機構を導入する.これらの理論モデルの検討により,化学力学クロストークが狭い空間でも運動する最適な幾何的条件を広げるかを検証する. また,アクチン波の連続体モデルは複雑な生体内での力推定アルゴリズムの開発にも使用できると期待される.フェーズフィールドモデルを用いれば,細胞の力と構造形成の計算データを大量に生成することができる.この大量のデータからPhysics-informed機械学習法を構築し,生体組織内を動く細胞の画像から収縮力や細胞運動能を推定・解析することで,力を介した秩序化の仕組みを解明する. さらに, 構築したアクティブゲル理論は各細胞を粘弾性体と捉えられるため,容易に多細胞系へと拡張することができる.細胞集団においても1.力のバランス(運動量保存則)と2.連続の式から構成できる.ここに細胞集団の先頭で感じた外部環境の変化を後続に伝えるシグナル伝達の反応拡散式を加え,細胞集団の運動や力に誘起される時空間秩序のアクティブゲルモデルを与える.細胞間を伝うERKシグナルの波に逆らう集団運動を例に解析を進め,細胞集団がシグナルに対して鋭敏に応答する機構を明らかにする.
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