研究領域 | 力が制御する生体秩序の創発 |
研究課題/領域番号 |
23H04716
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝幸 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40451629)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | メカニカルストレス / 形態形成 / マクロ / 発生 / 細胞集団運動 / 応力 / ニワトリ胚 / 肢芽 / 上皮 / 力 / 組織間相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ニワトリ胚の肢芽をモデルとして用い、異なる組織である肢芽の上皮と間充織の間の力の相互作用を解析することで、これまで未解明であったパターン形成後の「肢芽全体の器官が遠近軸方向に沿って自律的に伸長するメカニズム」の解明に挑む。具体的には本研究では、組織培養を用いた、肢芽の上皮組織内部の応力の時空間的な定量解析、及び上皮組織の物性の測定により、内部の間充織細胞全体に圧縮力を生み出すメカニズムを解明するとともに、力と細胞応答の関係及び力を生み出すメカニズムを細胞レベルで理解するために、応力の異方性を生み出す上皮組織の細胞動態と力を生み出す責任分子の局在をミクロレベルで解析する。
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研究実績の概要 |
本研究では、ニワトリ胚肢芽を用い、これまで焦点が当てられてこなかった部分である、モルフォゲンなどの遺伝子発現によらない上皮細胞と間充織細胞の間のintrinsicな力学的シグナルのやりとりに着目することで、3次元の肢芽全体の伸長機構を明らかにすることを目指している。2023年度の実験で、肢芽の上皮は2層あり外側の扁平で配向性のないperiderm(外皮)と前後軸に沿って配向している厚みのあるbasal epidermis(基底膜側上皮)という2種類の全く性質の異なる細胞で成り立っていることを発見した。レーザーアブレーションの結果から、基底膜側上皮には配向している前後軸方向に沿って遠近軸方向より5倍大きい異方的な応力がかかっており、さらに上皮組織特異的にミオシンを阻害すると肢芽の伸長が阻害されることから、肢芽の上皮組織は、由来が異なる組織である内部の間充織組織を前後軸方向(又は輪切りにした時の円周方向)に圧縮することで、力学シグナルにより肢芽全体の伸長方向をコントロールしている可能性が示唆された。また肢芽を輪切りにしてex vivoでタイムラプス観察を行うと、間充織全体が前後軸方向に沿って圧縮されるという結果を得た。この実験を、上皮組織を取り除いてから行うと圧縮されないことから、上皮組織が確かに圧縮力を生み出していることが考えられる。そこで肢芽上皮の細胞にミオシンの活性を阻害するブレビスタチンを上皮組織のみに作用させた時に、間充織の細胞が圧縮されるのかを観察した。その結果、上皮組織のみでミオシンを阻害すると肢芽内部の間充織の細胞のアニソトロピーが減少した。この結果から、肢芽の上皮組織の力学的拘束がミオシンの活性化を介して間充織組織の変形する方向を規定していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ニワトリ胚肢芽を用い、これまで焦点が当てられてこなかった部分である、モルフォゲンなどの遺伝子発現によらない上皮細胞と間充織細胞の間のintrinsicな力学的シグナルのやりとりに着目することで、3次元の肢芽全体の伸長機構を明らかにすることを目指している。研究計画の遂行状況として予定通り2023年度の実験で、肢芽の上皮組織の形態を観察し、外側の扁平で配向性のないperiderm(外皮)と前後軸に沿って配向している厚みのあるbasal epidermis(基底膜側上皮)という2種類の全く性質の異なる細胞で成り立っていることが判明した。また当初の計画通りレーザーアブレーションを行い基底膜側上皮には配向している前後軸方向に沿って遠近軸方向よりどれだけ異方的な応力がかかっているのか定量的に解析することが出来た。また上皮組織における応力を生み出している分子実態を調べるために、当初の計画通りに上皮のミオシン活性を阻害した時に間充織の細胞群の変形解析を行なった。これらの結果は、2024年度に行う肢芽の変形解析のシミュレーションに用いるデータであり、おおむね予定通り研究が遂行できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の結果から、上皮組織は前後軸方向に沿って応力の異方性を生み出していると同時に、肢芽の遠近軸に沿った伸長に伴い上皮組織自身も変形していることが考えられた。力を生み出している上皮組織の細胞は、これまでの我々の結果から、前後軸方向に沿って多くの細胞が分裂していることが分かっている。そのため、上皮組織の細胞自身も互いの位置関係の入れ替えや運動を行なっている可能性が考えられる。そこでFM4-64を用いて肢芽上皮の細胞を生体染色し、タイムラプスイメージングを行い上皮組織内の細胞の位置関係の変化をImarisを用いて解析する。これにより肢芽の上皮組織の細胞が異方的な応力を受けた時にどのように細胞群が変形するのか定量的に解析する。また連携研究者である理研の森下喜弘博士とともに、連続体シミュレーションを用いて3次元の肢芽の伸長を力学的に理解するためのモデルを作成する。3次元の形態形成のモデルを構築するために必須である器官全体の3D形状の取得はすでにOPTスキャナーを用いて取得してある。まず肢芽形成初期の肢芽の3 次元の実測値の形状を用い、3次元の肢芽の表面の接線方向を計算する。次に局率などの特徴量からその上皮の地点にかかることが予想される応力の値をシミュレーションにより計算する。このシミュレーションでは、肢芽の成長に伴い、内部の間充織の細胞が等方向的に上皮組織を内部から押している仮定を入れる。これまでの予備的シミュレーションにおいて、この仮定を元に上皮組織内部に発生する応力の方向性を算出したところ、驚いたことに肢芽の形状に沿って上皮組織内部には前後軸方向に沿った応力が形成される可能性が示唆されている。シミュレーションの結果を元に、初期の肢芽の形状が、肢芽全体の形態変化にどのように寄与する可能性があるのか解析を行う。
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