研究領域 | 力が制御する生体秩序の創発 |
研究課題/領域番号 |
23H04724
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
塩見 晃史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (60880557)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | 機械特性 / 1細胞RNAシーケンシング / 遺伝子発現 / 細胞集団ダイナミクス / オルガノイド / 1細胞RNA-seq / 細胞表面張力 / 変形能 / エレクトロポレーション / トラックエッチド膜 / 細胞老化 |
研究開始時の研究の概要 |
個体発生や組織の再構築において、細胞同士は複雑な秩序の下に集合し適切に形状変化・配置されることで機能的な臓器を形成している。組織内の細胞の形状は主に個々の細胞同士の接着力(細胞間張力)と細胞自身の膜張力(細胞表面張力)のバランスによって制御されており、組織の力学的な境界条件となる組織表面上のこれらのパラメーターを算出することができれば、組織形状の制御を理解することが可能である。本研究で開発するELASTomics法は、これまで技術的に困難であった各細胞の力学的状態と遺伝子発現を同時に比較可能な技術であり、解決方法を与える重要な基盤測定法となるものと位置づけられる。
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研究実績の概要 |
個体発生や組織の再構築において精巧な構造を形成するには、細胞同士の細胞間張力と細胞自身の細胞表面張力の制御が重要であり、近年その主要調節因子が精力的に研究されている。しかし、細胞表面張力や細胞間張力の上流にある制御機構や応答機構については不明な部分が多く、組織の力学的な境界条件を決定している細胞表面張力がどの様な制御を受けているのかについても未だに明らかではない。本研究は、これまで技術的に困難であった細胞表面張力と遺伝子発現を 1 細胞解像度かつ大規模に統合解析する新規手法としてELASTomics法を確立、特徴的な形状変化を示すオルガノイドや組織に対し適用することで、組織形成における細胞集団ダイナミクスの分子メカニズムを明らかにする。 今年度は本研究の基盤となるELASTomicsの開発が完了し、がん細胞の浸潤や造血幹細胞の分化、細胞老化といった細胞の機械特性が重要な生命現象に対しELASTomicsを用いた細胞表面張力と遺伝子発現の統合解析を実施した。さらに、シーケンシングにより細胞表面のタンパクの情報を解析するCITE-seqとの併用もELASTomicsは可能であることを実験的に証明した。これらの研究成果は現在、Nature Communicationsに投稿され2回目のReviseの段階である。 更に、今年度はUCLAとの共同研究を行い、マイクロ流路を用いて細胞を高速で伸展させDTDを細胞内へ輸送することで、細胞表面張力とは異なる細胞の物理状態である細胞変形能と遺伝子発現を統合解析することが可能な新たな測定法を提案・その予備検討を行った。その結果、細胞の変形能は細胞内への物質の輸送量と高く相関しており、提案方法の妥当性が立証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は本研究の基盤となるELASTomicsの開発がほぼ完了し、実際に4種類のがん細胞(PC-3, MDA-MB-231, MCF7, MCF10A)、マウス造血幹前駆細胞(mHSPC)、老化細胞(TIG-1)に対してELASTomicsを実施、細胞表面張力を調節する原因遺伝子の同定がELASTomicsにより可能であることを実験的に証明できた。さらに、ELASTomicsを発展させた国際共同研究により、ELASTomicsでは測定できない細胞変形能と遺伝子発現を統合解析することが可能な新規測定法の開発という当初の予定外の成果も得ることができた。これらの成果を論文としてまとめ、科学雑誌への投稿まで達成、次年度の多細胞の解析に向けた準備が整ったため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に開発したELASTomicsを更に発展させ、オルガノイドや胚組織といった多細胞に対してもELASTomicsを適用させることが可能なデバイスを開発し、多細胞における機械特性の制御を遺伝子発現と共に解析する。 まず初めに、ELASTomicsを上皮組織のin vitro モデルであるイヌ腎臓由来MDCK細胞に対して行い、AFMを用いた従来の膜張力測定法と比較することで、単層オルガノイドに対するELASTomics法の適用条件の検討を行う。次に、初期の四肢の芽を形成する際、Wnt5aに依存した機械特性の勾配をとることが報告されている四肢芽(LBs)の形態形成に着目する。マウス多能性幹細胞からLB様間葉/上皮複合組織を誘導する方法を用いてトラックエッチド膜上で四肢芽オルガノイドを培養し、一定期間毎にNanoEPにより各細胞内にDTDを輸送、最終的に1細胞RNAシーケンシングを行うことで、各細胞の細胞表面張力の時間変化と遺伝子発現を網羅的に解析する。 同時並行で、前年度に始めた細胞変形能と遺伝子発現を統合解析法の開発も継続し、マウスのマクロファージを用いた解析を実際に施行することで、マクロファージの分化における細胞変形能変化の分子機構について解析する。
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