研究領域 | 生体防御における自己認識の「功」と「罪」 |
研究課題/領域番号 |
23H04761
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
河部 剛史 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (50834652)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | T細胞 / 恒常性 / 自己免疫疾患 / 腫瘍免疫 / Tリンパ球 / ホメオスタシス / 自然免疫 / 自己免疫・炎症性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
T細胞は外来抗原に対する獲得免疫反応における司令塔としての役割を果たすリンパ球である。我々は同細胞中に、T細胞であるにも拘わらず自己抗原認識依存的に産生され、病原体感染時には自然免疫的に機能する「MP細胞」を報告した。そしてMP細胞の鑑別マーカーを同定するとともに、同細胞の分化機構や機能の一端を発見した。本研究は、MP細胞の生物学的特性や分化機構を解明するとともに同細胞の生理的・病理的意義の究明を図るものである。
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研究実績の概要 |
免疫系とは感染防御に必須の役割を果たす生体防御システムである。免疫応答は自然免疫と獲得免疫に大別され、うち獲得免疫反応の主軸はCD4 T細胞によって担われる。これに対して我々は、CD4 T細胞中に、定常状態下において自己抗原認識依存的に準活性化状態を呈し、病原体感染時にはT細胞であるにも拘わらず自然免疫機能を発揮し得る「MP細胞」を同定した(Sci Immunol 2017)。同細胞は外来抗原特異的メモリー細胞とは質的にも表現型的にも区別され(Front Immunol 2022)、またMP1やMP17などのサブセットより構成される(Nat Commun 2020)。これらの知見に基き、本研究ではMP細胞の生物学的特性や分化機構、免疫学的機能、MP細胞を取り巻く免疫細胞ネットワークの全容を解明し、T細胞自己認識能の持つ免疫学的意義を再定義することを目的とした。 我々は以前、MP細胞が主にIL-7Ra(lo-hi) Bcl2(lo)の表現型をとるのに対し外来抗原特異的メモリー細胞はIL-7Ra(hi) Bcl2(hi)であることを示したが、本年度はBcl2-transgenicマウスやCD4CreERT2 x Bcl2(flox)マウスなどの使用により、Bcl2シグナルの強弱がMPとメモリー細胞の本質的な差異を規定するかどうかの立証に取り組んだ。また、MP細胞におけるIL-7Ra、Bcl2発現量とMP1/2/17分化との関係性についても解析した。一方、MP細胞の持つ自己抗原反応性より、同細胞が自己免疫活性、抗腫瘍活性などを持つ可能性が考えられ、これらの証明についても研究を行った。 本年度に得られた知見に基き、来年度も引き続きMP細胞の特性や分化機構、免疫学的機能などに関する研究を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(I) MP細胞の生物学的特性:我々は以前、自己抗原反応性MP細胞がIL-7Ra(lo-hi) Sca1(lo-hi) Bcl2(lo)であるのに対し外来抗原特異的メモリー細胞はIL-7Ra(hi) Sca1(hi) Bcl2(hi)であることを証明した(Front Immunol 2022)。この知見に基き、「IL-7 - Bcl2シグナルの強弱がMP細胞とメモリー細胞の基礎的な免疫学的性質を規定する」との仮説の立証に向けて研究を行った。当初計画通りBcl2-transgenicマウスやCD4CreERT2 x Bcl2(flox)マウスを交配・繁殖し、MP・メモリー細胞におけるBcl2シグナルの意義を解析中である。 (II) MP細胞の分化機構:上記MPマーカーであるIL-7Ra、Sca1、Bcl2を用い、MP細胞を様々な分化段階にあるサブセットに分類できることが判明した。また、特定の分化状態を呈さない「未分化」MP細胞の存在も明らかになりつつある。さらに、これらのMPサブセットはそれぞれ特徴的なTCR配列を有することについても判明しつつある。現在、定常状態におけるこれらのMPサブセットの分化能や安定性、可塑性を解析中である。 (III) MP細胞の「功」と「罪」:MP細胞の抗腫瘍活性を解析したところ、MP1/17細胞が悪性リンパ腫に対して抗腫瘍効果を発揮しうる可能性が示唆された。一方、治療的アロ骨髄移植においてMP細胞は抗腫瘍活性を発揮する一方、GVHDを殆ど惹起しないとの知見についても得られつつある。また、MP細胞の自己免疫活性を解析したところ、MP1/17細胞がIL-12/23依存的に多臓器炎症を惹起しうるとの知見を得た。一方、MP自身が直接Tregに分化することにより、自身の炎症原性を自身が抑制しているとの興味深い知見についても得られつつあり、鋭意検証中である。
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今後の研究の推進方策 |
(I) MP細胞の生物学的特性:本年度に得られた知見に基き、引き続き、MP・メモリー細胞におけるIL-7 - Bcl2シグナルの持つ意義の解明に向けて研究を継続する。同マーカーを用いて、ヒトMP細胞の同定・解析も行う。 (II) MP細胞の分化機構:本年度に新たに得られた、IL-7R、Bcl2などのマーカーを用いて各分化段階にあるMPサブセットを分類できるとの知見に基き、それぞれのMPサブセットの特異的マーカーや転写因子の同定、TCR解析とretrogenicマウスの作製などを行う。 (III) MP細胞の「功」と「罪」:本年度、MP細胞が腫瘍免疫やGVHD、自己免疫疾患において特徴的な役割を果たすとの知見が得られたため、これらの分子メカニズムを探ると共に、研究成果を論文発表する予定である。 (IV) MP細胞を取り巻く免疫細胞ネットワーク:研究計画(III)よりMPとTreg、DCとの直接的な相互作用の存在が提起されたため、MPの過剰活性化をTregがどのように抑制するのか、その分子メカニズムを引き続き探求する。MPとTregとの間のTCR相同性についても、特にCDR3領域に含まれるそれぞれのアミノ酸含有量などに着目しつつ解析を進める。
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