研究領域 | 生体防御における自己認識の「功」と「罪」 |
研究課題/領域番号 |
23H04785
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 美菜子 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70793115)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | 脳組織Treg / 制御性T細胞 / T細胞受容体 |
研究開始時の研究の概要 |
脳梗塞のような組織損傷において脳組織から自己由来の抗原が放出され、獲得免疫応答が誘導される。自己抗原を認識して抗原特異的に活性化・増殖した制御性T細胞(Treg)が神経細胞やグリア細胞などの脳細胞と相互作用して脳組織の修復に関与する。しかしながら、このようなTregによる保護性の有益な応答や恒常性維持をもたらす自己抗原の同定には至っていない。そこで、本研究では様々なアプローチにより脳組織のTregを誘導する抗原や抗原提示細胞の同定と、抗原特異的なTregを利用した炎症抑制や脳組織保護を目指す。様々な神経炎症関連疾患の病態解明および治療・予防法の開発につながることが期待される。
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研究実績の概要 |
T細胞は獲得免疫反応において重要な役割を担っており、制御性T細胞(Treg)は免疫寛容において重要な役割を果たしている。Tregは非リンパ組織や損傷組織に存在し、「組織Treg」と呼ばれている。組織特異的な特徴を持ち、組織細胞との相互作用を通じて免疫調節、恒常性維持、組織修復に貢献している。しかし、抗原特異性、組織環境、病態など、Tregの組織特異性の重要な決定因子は不明なままである。 脳梗塞や実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の制御性T細胞に発現するT細胞受容体(TCR)配列をscRNAseq解析により同定した。そのうち、脳梗塞の脳やEAEの脳や脊髄でオリゴクローナルに増殖したTCRをGFP発現レンチウイルスベクターにクローニングし、TCRを欠損するTG40と58-α-β-T cell hybridomaに発現させた。EAEマウスのTregのTCRはEAE誘導時に抗原として用いたミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を認識するものが多かった。高いクローナリティを持つT細胞受容体(TCR)のほとんどがEAEマウスの脳と脊髄の両方に存在した。脊髄ではGata3+およびRorc+ TregがMOGを認識するTCRを発現しており、Rorcの発現に適した組織環境であることが示唆された。脊髄と脳における組織特異的なケモカイン/ケモカイン受容体相互作用は、Tregの局在に影響を与えた。最後に、脊髄または脳由来のTregは、それぞれEAEマウスまたは脳卒中マウスにおいて、より高い抗炎症能と組織修復能を有していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗原の同定には至っていないが、TCRと関連して脳と脊髄のTregの特徴の違いを明らかにし、論文投稿中であるため。
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今後の研究の推進方策 |
腸管のRorγt+ Tregの誘導やEAE発症に必要なMHC-II発現ILC3など、新たな抗原提示細胞の重要性が示唆されている。脳梗塞後の脳組織でも樹状細胞だけでなく、ミクログリアやアストロサイトなどの脳組織細胞もMHC-IIを発現する。そこで、脳Tregの誘導に必要な脳由来抗原と脳内での生存維持に関与する抗原提示細胞を同定する。 T細胞が抗原提示細胞と結合したままの状態(ダブレット)で分画する技術が確立されている。我々自身の手でもフローサイトメトリー解析によるダブレットの確認とscRNAseqで抗原提示細胞とT細胞の遺伝子が検出できるポピュレーションを確認した。免疫細胞だけでなくアストロサイトなどの脳組織の細胞も単離し、MHC-II陽性細胞のscRNAseq解析を行う。その際に、タブレット除去を行わずにソートすることで、Tregと結合しているMHC-II陽性細胞を同定する。細胞特異的CreマウスとMHC-II floxマウスを利用して、脳Tregの抗原提示細胞を同定する。 同定したTCRを導入したT細胞と抗原提示細胞を脳梗塞マウス由来の脳内物質存在条件下で共培養することでできるダブレットを分画する。または、TCR Tgマウスからダブレットを分画する。これらの画分からMHCクラスII結合ペプチドを単離し、LC-MS/MSで配列を同定する。 1つの抗原提示細胞の提示するペプチドは複数あるため、enrichされている候補のペプチド配列をピックアップして合成し、in vitroの培養系でスクリーニングを行い、脳TregのTCRと応答するペプチドを絞り込む。ペプチドの由来タンパク質についても予測し、ヒトTCRとの応答性を検討する。アストロサイトや抗原提示細胞との共培養系などを用いてin vitroで活性化・増殖したTregを治療応用に用いる。
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