研究領域 | 光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成 |
研究課題/領域番号 |
23H04808
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高林 正典 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (70636000)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 光電子融合型AIハードウェア / 光複素振幅変調 / 光複素振幅検出 / ホログラフィ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は光学的アプローチによるニューラルネットワークのハードウェア実装法に関する.特に,大規模かつ多様なニューラルネットワークを実装するための方法として,空間光変調器(SLM)による光変調部,散乱媒質を介した光結合部,カメラによる光検出部からなる光演算ユニットを,電子処理を介して結合する「光電子融合型AIハードウェア」に着目する.通常,光演算ユニットの入力は光の振幅または位相分布,出力は光の強度分布と限定的であるが,本研究では,変調・検出する物理量を振幅と位相の両方(複素振幅)に拡張し,当該技術のポテンシャルを最大限引き出すための電子処理法および複素振幅変調・検出法について研究する.
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研究実績の概要 |
本研究は空間光変調器(SLM)とイメージセンサを光電変換デバイスとして利用することで高い空間多重度を実現する光電子融合AIハードウェア(OE-DNN)に関する.通常OE-DNNは光の空間情報の一部のみを変調/検出するが(典型的にはSLMは振幅または位相を変調し,イメージセンサは振幅(強度)を検出する),本研究では光の複素振幅分布を変調/検出する仕組みを備えたOE-DNNが持つポテンシャルを明らかにしたうえで(2023年度),その方法を確立する(2024年度). 2023年度は,複素振幅分布の変調/検出が理想的に行えるという仮定の下でシミュレーションを中心とした研究を行った.まず,ホログラムや散乱媒質を挿入した線形システムの入出力面複素振幅分布を関係付ける透過行列(TM)を導入したシミュレータを構築し,それを用いた誤差逆伝搬アルゴリズムを用いた学習の実装により,複素振幅変調画像の識別タスク(振幅と位相に変調された画像の組み合わせを識別するタスク)のシミュレーションを行えるようにした.そのうえで,層数や適用する複素活性化関数による識別率の違いを調査した.その結果,複素振幅変調画像の識別タスクの正答率は,従来の振幅or位相変調/強度検出のOE-DNNよりも複素振幅分布を入出力とするOE-DNNの方が優れていることが分かった.また,層数を増やしたときの識別率の改善の効果も従来よりも優れていることが見出された.さらに,適用する活性化関数についても調査し,振幅のみに活性化関数を作用されることで高い識別率を実現できることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従い,(1)複素振幅分布を入出力とするOE-DNNの数値シミュレータの構築と(2)当該シミュレータを用いた複素OE-DNNの諸特性調査に取り組んだ.(1)については,散乱媒質を挿入した線形光学システムの透過行列(TM)の計測が実験的に行えるようになった点,TMを導入した複素OE-DNNにおける誤差逆伝搬法に基づく学習や推論を行えるようになった点,これを用いて複素OE-DNNによる複素画像識別タスクがシミュレートできるようになった点などから,想定通りまたは想定を超える進捗が得られたと評価している.(2)については,従来の変調/検出が制限されているOE-DNNに比べて複素画像識別タスクにおいては複素OE-DNNの方が優れた正答率を達成できる点,何種類かの複素活性化関数を適用し,複素画像識別タスクの識別率を比較できた点から,およそ計画通りの進捗が得られたと評価している.その一方で,互いに異なる散乱特性を有する散乱媒質を用いた場合の比較や変調/検出パターンの空間解像度の比較については十分に検討するところまで至らなかったので2024年度に継続する.ただしこれらの評価を進めるための準備は他の評価をする際になされているので直ちに実行できる.そのため全体の計画には影響しない.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究が概ね計画通りに進んだため,2024年度の研究は2023年度に得た知見を活用しつつ当初計画通りに進める予定である.2023年度に得られた知見の一つである「複素画像識別課題においては電子処理部において振幅のみに活性化関数を作用させれば十分である」を前提として,実際の光変調/検出手法を想定した複素OE-DNNのシステム構築に取り組む.具体的には,光複素振幅変調法として,軸外ホログラフィ法,位相迂回法,二重位相法などを想定する.また,光複素振幅検出法として,フーリエ縞解析法,時間領域位相シフト干渉法,空間領域位相シフト干渉法などを想定する.複素画像識別タスクの正答率,電子処理部の計算負荷などの観点から具体的な光複素振幅変調/検出法の適用指針を獲得する.最後に研究機関全体で得られた知見をもとに光電子融合型複素AIハードウェアを実際に構築し,本技術の実行可能性を示す.
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