研究領域 | 光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成 |
研究課題/領域番号 |
23H04810
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
斎木 敏治 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70261196)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 液滴ロボット / マイクロ粒子 / 相変化材料 / 光熱効果 / 金ナノ粒子 |
研究開始時の研究の概要 |
複雑な環境と一体化した光計算によって代謝、変形、移動を動的に最適化可能な液滴ロボットの構成を議論し、実験的に実証する。光照射と代謝によって維持され、変形、移動が可能な濃度マランゴニ流駆動の液滴を基本とする。ロボット内に埋め込んだ機能性粒子と環境に存在する基板、粒子が一体となって、集光、干渉、共鳴、光結合によって豊富な光構造を形成する。光熱効果によって液滴の変形・移動が生じ、粒子配置変化を通して光構造にフィードバックされ、ロボットの行動が最適化される。環境変化に柔軟に対応し、有害粒子の回避や有益粒子の取り込みに自律的に対処するようすを詳細に観察し、液滴ロボットの構成にフィードバックする。
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研究実績の概要 |
まず以下の方法で液滴を形成し、その最適化を試みた。エタノールとポリエチレングリコール(PEG)の混合溶液を、金薄膜をスパッタ成膜したガラス基板上に滴下し、もう1枚のガラス基板(成膜なし)で挟みこむ。基板間距離が数マイクロメートルになるよう滴下量を調整する、あるいは意図的にスペーサ粒子を導入する。滴下の際に内部に気泡ができるよう工夫し、この気泡部で液滴を形成する。気泡部には液滴で満たされたリザバー部からのプレカーサー層が存在する。気泡部の金薄膜にレーザー光を照射することにより、エタノールが蒸発し、相対的にPEG濃度が高くなる。その結果、照射領域中心に向かってマランゴニ流が発生し、液滴が形成される。以上につき、形成効率(歩留まり)を向上させるため、液体の混合比、基板間距離、気泡の形成方法などの最適化を行った。 金薄膜の替わりに異方性を有する金ナノロッドをガラス基板上にランダムに分散させ、液滴形成を観察したところ、金ナノ粒子をアンカーとする多角形・星形の液滴が形成され、照射スポットを走査するにともなってその形状が変化した。照射光の偏光が金ナノロッドの長軸方向と一致するとき強く光吸収が起こるため、偏光回転によっても同様に変形が生じることを確認した。 金ナノロッドをエタノール・PEG液とあらかじめ混合させ、金の成膜のない2枚のガラス基板を用いて液滴形成をおこなった。一部の金ナノロッドはガラス基板に吸着し、液滴形成のための加熱源として機能した。液滴内で運動する金ナノ粒子(クラスター)が光スポット内に取り込まれた際に光吸収が生じ、液滴サイズの変化、変形、運動・移動など多彩なダイナミクスが発生した。液滴の移動とともに金粒子の取り込みも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、以下を目標に掲げている。 液滴内に共鳴能を有する金ナノ粒子、集光能を有するサブミクロン粒子、自己推進能を有するヤヌス粒子を導入し、さらに環境として吸熱、相変化する基板や粒子を配置する。粒子の配置と基板の相状態によって温度分布が決まり、温度分布によって液滴ロボットの位置、形状が決まる。この相互フィードバックによってセルフコンシステントにロボットの行動が最適化される。その際、静的に最適化されるとは限らず、継続的な運動、移動をともなう場合もある。移動や相変化にともなう環境変化に柔軟に対応し、有害粒子の回避や有益粒子の取り込みに自律的に対処するようすを詳細に観察し、液滴ロボットの構成にフィードバックする。 前半である2023年度は金ナノ粒子を液滴や基板に導入し、セルフコンシステントな行動の最適化、さらに継続的な運動や有益粒子の取り込みも確認できた。 当初の計画には掲げていなかったが、複数光スポットによって液滴を同時形成し、その相互作用を観察した。光強度や液滴間距離の関数として、液滴運動の同期現象やカオス的な振る舞いを確認した。アレイ状に多数の液滴形成することにも取り組み始め、リザバーコンピューティングや臨界現象を利用した計算への応用可能性が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、相変化材料を用いて環境とロボット自身に記憶能を導入する。具体的には相変化膜を液滴形成基板とする実験と相変化ヤヌスを含有する液滴形成の実験に取り組む。 前者では、ポリスチレンビーズを液滴に含有させ、レンズ効果によりビーズ直下に光を集光する。基板として相変化材料GeSbTeを使用し、ビーズの移動軌跡を結晶相に変化させ、行動履歴を記憶する。結晶相は光吸収率が高いため、ビーズの分布に偏りが生じれば、液滴の自己推進が予想される。また、結晶相は液滴の濡れ性が高いため、結晶相上を好んで移動する。これを利用した帰巣行動の発現が期待される。 後者では、交流電界印加によって自己推進能を発現するヤヌス粒子を含有させると、ポリスチレンビーズ以上に強い液滴の自己推進や変形が期待される。また相変化ヤヌスを導入すると光照射にともなう結晶化によって液滴の内部状態を変化(履歴記憶)させることができる。例えば横方向からの光照射によって半球レンズ効果で集光、結晶化を生じさせ、照射方向への移動履歴を記憶することが可能である。
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