研究領域 | マクロ沿岸海洋学:陸域から外洋におよぶ物質動態の統合的シミュレーション |
研究課題/領域番号 |
23H04815
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
乙坂 重嘉 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (40370374)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 物質循環 / 放射性炭素 / 海水 / 北西太平洋 / 溶存有機物 |
研究開始時の研究の概要 |
北西太平洋海域の沿岸―外洋間における微量栄養塩の動態解明のための基盤情報として、海水中に含まれる溶存有機物が持つ放射性炭素(C-14: 半減期5,730年)の同位体比の分布を明らかにする。得られる情報から、海洋表層における複数の溶存有機物供給源を弁別するとともに、深層では溶存有機物の循環像に時間軸を与え、同海域における栄養物質の輸送経路や時間スケールを推定し、マクロ沿岸海洋学に貢献する。
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研究実績の概要 |
本研究は、北西太平洋海域の沿岸―外洋間における微量栄養塩の動態解明のための基盤情報として、海水中に含まれる溶存有機物が持つ放射性炭素(DOC-14)の同位体比の分布情報から、海洋表層における複数の溶存有機物の供給源を弁別するとともに、同海域における栄養物質の輸送経路や時間スケールを推定することを目的としている。 2023年度は、研究代表者のグループが主体となって実施した「白鳳丸」KH-23-2次航海、「新青丸」KS-23-12次航海、同KS-24-05次航海において、延べ17観測点で海水試料の採取と関連データの取得を実施した。また、先行して実施した北西太平洋広域でのDOC-14同位体比の分析と結果の取りまとめを実施した。 既取得試料については、データの空白域となっていた北西太平洋(東経165度以西、北緯25度から56度までの範囲)の縁辺域を含む22の観測点で採取した表層海水中のDOC-14同位体比を分析し、その分布を明らかにした。 海水中のDOC-14同位体比は、研究代表者によって改良したUV照射法によって海水中のDOCを抽出・精製し、そのC-14同位体比を東京大学大気海洋研究所のシングルステージ加速器分析装置 (YS-AMS) で計測した。 表層海水中のDOC-14同位体比は、全体として高緯度域で低く、亜熱帯域で高かった。全ての観測点についてプロットした表層海水中のDOC濃度の逆数(1/DOC)とDOC-14同位体比の関係は、切片の異なる2つの直線を示した。この結果から、全体として、表層のDOCは、深層由来の古いDOCと、表層由来の新しいDOCの2成分の混合物であることが裏付けられた。一方で、表層由来のDOC端成分は、海域によって異なっており、縁辺海では、陸域や縁辺堆積物を起源とする、見かけ上古いDOCの供給の影響をより強く受けたものであると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、下記の2項目を概ね計画通りに実施した。 1. 北西部北太平洋の縁辺における、陸―沿岸―外洋間の溶存有機態放射性炭素の詳細分布解明 北西太平洋への親生物微量元素の主要な供給源であると推定されるオホーツク海への接続海域である北海道東部の太平洋沿岸域において、高い空間分解能でDOC-14分布を明らかにし、同海域におけるDOC-14のエンドメンバー値を推定した。また、同海域を供給源とする溶存有機炭素が北西太平洋外洋域の中層水中の溶存有機炭素に占める割合を定量化し、論文として公表した。また、新たな沿岸トレーサーとしてのDOC-14の可能性について評価するため、2つの航海を実施し、2023年8月に開始された福島第一原発からの処理水放出によるDOC-14の沿岸動態を観測した。 2. 沿岸-沖合間での物質輸送プロセスの速度論的理解 北西太平洋の深層には、溶存有機炭素が持つ放射性炭素年齢が世界中の海洋で最も高い(> 6000年)、すなわち極めて長い時間に亘って生分解をしていない溶存有機物が存在している。この海域は、深層大循環の終着域であることに加えて、その大きなキャパシティから、数十年規模での環境変化による溶存有機炭素プールへの影響が顕在化していない海域と考えられる。本研究では、既往の研究に比べて格段に高い空間解像度でその濃度及び特性の分布情報を取得し、高精度な(100年程度の不確かさでの)炭素年代測定による時間軸を加える。本項目では、得られる濃度―年代の関係を統計的に解析することで、これまで定量化されていなかった、超難分解性の海洋溶存有機物の深海での分解速度を見積もるため、北西太平洋の10観測点において6000mにわたる深度での海水を採取し、分析を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に採取した海水試料の分析を継続するとともに、下記の2つの観点でデータを解析し、まとめる。試料分析は、乙坂に加えて、所属研究室の協力者(大学院生等)が実施する。 1.北西部北太平洋の縁辺における、陸―沿岸―外洋間の溶存有機態放射性炭素の詳細分布 2023年度に実施したDOC-14の分析結果から、北西太平洋への親生物微量元素の主要な供給源として、(1)東シナ海から九州南東にかけての太平洋縁辺、(2) オホーツク海ブッソル海峡周辺、(3) ベーリング海西縁域で、特異的に年齢の古いDOC-14が観測され、堆積物等を由来とする外来性DOCの供給源が複数存在することが示唆された。2024年度は、DOC-14の情報に加えて、有機物の特性やトリウム同位体等の天然放射性核種の分布情報をあわせて解析し、海洋内部への外来性DOCの供給経路について解析を進める。 2. 沿岸-沖合間での物質輸送プロセスの速度論的理解 2023年度に引き続き、北西太平洋の中・深層における海水中のDOC濃度及びDOC-14年代の分布情報を高い空間解像度で解析し、これまで定量化されていなかった、超難分解性の海洋溶存有機物の深海での分解速度を見積もる。加えて、2023年度に実施した新青丸KS-23-12航海(2023年8月)及びKS-24-5航海(2024年3月)の観測結果を比較し、2023年8月に放出が開始された福島第一原発からの処理水に由来するDOC-14の検出と追跡を試みる。同海域へのDOC-14年代に影響を与えうる陸水(地下水、河川水)の分析結果も合わせて考慮し、上記1で示唆された北西太平洋縁辺での外来性の炭素の輸送過程について、海洋内部での輸送・分解・拡散過程の観点からまとめる。
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