本年度の主な研究実績は次の2点であった。第一に、前年度に行った模擬裁判実験で得られた知見を精緻化し、法と心理学会第14回大会において研究報告を行った。 第二に、前年度に引き続き、模擬裁判実験を行い、公判を「振り返る」ことによって裁判員が焦点を向ける情報の範囲にどのような変化が生じるか検討を行った。今年度は、対象とする事案を変更した上で、前年度に準じた手続きで実験を行い、前年度に得られた知見の一般性を検討した。 実験手続きは次の通りであった。まず、模擬裁判の様子(帰宅途中の5歳児が殺人事件を目撃し、被告人が犯人である旨証言を行う。しかし、被告人は犯行を否認している)を冊子で参加者に提示した。その後で、実験条件の参加者は、質問紙1に回答することによって公判の「振り返り」を行った。統制条件の参加者は、事件とは関係のない挿入課題を行った。次に参加者は、裁判員として4人から6人程度のグループで、被告人が有罪か無罪かの話し合い(評議)を行った。評議終了後に行った質問紙2の結果について分析を行うことで、参加者がどのような情報に焦点を当てていたか検討を試みた。 質問紙2で得られた評定値について、条件(統制条件、実験条件)×質問項目(30項目)の2要因混合計画法による分散分析を行った。その結果、条件の要因に有意な主効果はみられなかった。このことから、振り返りを行うことで、必ずしも焦点化される情報の範囲に変化は見られない可能性が示唆された。以上について、2014年3月2日に慶應義塾大学で行われた「新学術領域・法と人間科学」の成果報告会において報告を行った。
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